Les infortures de la vertu




01



「手塚の馬鹿!」

想わぬ人のつかった、想わぬ内容の(珍しいとも言っちゃえそうな)絶叫に、その扉を開けようとしていた桃城と、その後ろにくっついていた越前は動揺を抑えきれないまま顔を見合わせた。
その人の絶叫・・・というより、感情的な怒りの声というのは正直はじめて聞いて、普段の「キレた」といわれるときとは違った様子は意外というよりも好奇心を駆り立てられる。
しかし言葉から憶測される行為そのまま、桃城が開け損なった扉が勢いよく開いたかと思うと、そこから見慣れた先輩の姿が飛び出して後輩二人のバランスを崩した。

「うわっ」
「あ」
「不二先輩?」
「ごめん」

え?
・・・・・・・あの不二先輩が、ごめん?!

どうにかこけるという失態は免れた主従コンビだったが、重ねられるような衝撃が二人を貫く。
っていうか、謝られること自体がもう事件だ。

だってあの不二周助が。

だが彼らの衝撃などそ知らぬまま駆け出した件の先輩の姿はもうなく、開け放たれた扉の向こう、過ごしなれたテニス部部室にしか、この状況を説明してくれるものはない。

殆ど誰に言われたわけでなくても「促されている(それを一般的にはネコが殺される好奇心という毒に他ならないことをその時の彼らは自覚していない)」気分でこっそりと覗き込んだ先にいる、頬をはらし、普段とは異なるレベルでぶすっ、とした顔の部長を観ると、動揺は重なるばかりだ。
ただこの御本人、普段から似たような面構えなので微妙に判断が難しい。

「っつーか、騒ぎになるぜ、あの顔は」
「不二先輩みかけキシャだけどやるもんスね」
「あの人の場合、的確にダメージを与えられる当たり所がわかってるんだろ。
・・・・・・で、なにかましたんスか?部長」
「・・・・・・なんの話だ?」
「その顔のまま明日学校登校すれば、俺たちじゃなくても同じこと聞きますよ、それこそ片っ端から」
「そうは言うがな、桃城。
お前たちぐらいだぞ、俺に対し、遠慮なく聞いてくるのは」
「そうッスか?」
「あぁ。大石たちは、逃げるからな」

「・・・・・・・・・・・・」

桃城と越前は再び顔を合わせた。
おたがい、完全に顔色を失っている。
っていうか、自分が地雷を踏んだことを、今更のように悟ったのである。

逃げるぞ。
らじゃー。

びっくりするくらいの本音が一瞬で、目線だけが会話として成立する。
・・・・・・だが。

「どうした?越前、桃城」

さっきの絶叫する不二やら謝ってる不二やらも充分動揺するものだったが、重ねてとんでもないものをみた。

・・・・・・なんで笑ってるデスか?部長。

「いえ」
「部活、シマショウ」
「あぁ、そうだな」

・・・・・・・・・・

「俺たちにこの騒ぎをどうこうできるノウハウはありませんからね?!先断っときますけどっ」
「勿論、お前ら程度がどうにかできるとでも?」

・・・・・・・じゃぁせめてその顔を先ず止めてください。
相変わらずさわやかと言ってもいい笑顔の男に、土下座して頼むから聞かないと誓いたくなる。
なに企んでるんですか?と。



 02


「ばっかだねー、お前たちー」

遠慮のない菊丸の言葉に、年齢逆転主従コンビは顔を合わせた。
まさに同情というに相応しい先輩の一言は、正直混乱の極みだ。
っつーか、まためずらしいものを聞きすぎる。
菊丸の、同情。
これもぶっちゃけた話、怖いものに違いない。

「あの、英二センパイ?」
「よりによって不二と手塚の喧嘩に足突っ込んじゃったなんて。
俺しんねーかんなー」

説明皆無で同情票だけ押し付けられているようにしか見えない状況に、いやだからどういうこと?と投げる目線が痛い。
っていうか。

「突っ込んだって言いますけど。俺たちは目撃しただけっすよ?
これ以上関わらなければ全然問題ないんじゃ・・・」
「普通の人の喧嘩ならね」
「・・・・・・・・・・・・・・・はい?」

普通、のはずだ。
手塚も不二も、年齢不相応な外見と思考と行動力を除けば。
あれ?どこが普通?
そんな人たちの、どの辺を普通という?

「英二、脅しすぎてるよ」

首をひねった後輩たちに、殆ど救いと言ってもいい大石の声。
顔を上げた二人に、不真面目に忠告だけ投げてきていたにゃんこが、ご主人様によっかかる姿が見える。

「でも事実」
「そうだけど」

否定は?!
想わぬやり取りにコンビともども目をむくのだが、当人たちは至ってのんびりとしたものだ。

「あの、っていうか、俺たちどうなるんです?」

王子様がもう半ばヤケになってそう聞いた。
他に言葉が出てこなかったらしい。
隣で桃城が思いっきり首を縦に振りまくる。
っていうか、どうなるかってそれ聞くところか?
しかし巻き込まれるらしいと聞いたら、改めて確認しておきたい。
せめて回避できればと。
・・・・・・・・・無理とわかってるなら、その知識もまた身を守る少しでも手段になるはずだ。

「喧嘩の期間はそう永くないとは想うけど・・・
その間、不二でも手塚でも他の誰かと一緒に会うようにしたほうがいい、二人とも」
「他の」
「誰か?」

そう。と大石は大真面目に頷いた。
これが自分に出来る最大限の言い含めだと。

「いいかい?
二人は実は何度か喧嘩している」
「え?」
「何度かって、俺が入ってからもスか?」
「うん。知らなかったでしょ?」

全然知らない。
誰も話していない。
目を丸くする後輩たちに、おかーさんが言い含める。
いい?狼にあっても目を合わせちゃいけないよ?
そんな言葉が幻聴で聞こえた。

「二人はね、けんかしていることを隠すんだ。
それも徹底的に」
「はぁ」
「けど、二人きりになると、爆発する。
そして、その爆発は、喧嘩を知っている人間がいるときも起こる」

・・・・・・・・起こる?
知ってる?
知っちゃった場合?
・・・・・・・・・・・・・・・・えーと?

「つまり、隠しても仕方がない人間に対してまで、フォローする気は全くないと」
「平たくいうと、そうだね」

・・・・・・・・・・・・

「まぢでか?!」
「それに巻き込まれるんスか?!俺らがっ」
「それも話聞いてると、手塚が悪いみたいだからねー
不二の場合、知っての通り天候が・・」
「はい?」
「こら、英二。偶然だよ、アレは」
「あ、そーだったねー」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あの。それには否定できないものを目撃した記憶があるんですが、それはなかったことにした方が正解ですか?もしかして。
あぁそれより、話たんだからそっちでフォローとか、ないでしょうね、ないだろうなぁ・・・

くすん。



03


「・・・・・気持ち悪いぞ、お前ら」
「っさい・・・」
「好きで気持ち悪いわけじゃないッス」

ぐったりと転がっている悪友連中に、海堂は迷惑そうな感情を隠そうともせず訴えたし、言われた方もうざったそうにごろごろとしていた。
草の匂いがする公園の木陰で寝転がった桃城とリョーマは自主練組の海堂と乾の全力で邪魔だという目線の中、だがここから移動するわけには行かなかった。

「っつーか、普段絶対合わないようなところで鉢合わせになって全力で愚痴を聞くって、一体なにが起きたのかと想ったッスよ」
「っていうか、あれって愚痴?」
「わかんねぇよな、そこんトコも」

じゃぁその愚痴を聞かされたという愚痴に眉を潜めているチームメイトはどうでもいいと?
言外の敵意にだが無神経コンビ(種類は違うが)が気にするどころか気づくはずもなく。

「あんまり話はきかないよ。
大石たちの態度からも解るだろうけれど、知ったと認識されたら、俺たちにも被害が及ぶから。
今だって海堂には聞かないように帰りな、って言いたいくらいなんだからね」
「・・・・・・・・・・どんだけ俺ら生贄ッスか」

どういう意味だろうと海堂が眉を潜めているが、問いかけようとはしなかった。
聞いたらいけないとそれだけは理解できたらしい。
全く、乾限定で理解力のある奴だ。

「自業自得だよ」
「不可抗力っす」

「それにしても乾センパイすら逃げるって・・・」
「逃げてるわけじゃないけど、やっぱ、色々面倒だったからなね」
「えー」

黄金ペアが主張していた「問題」はすぐにわかった。
なんだかんだで自分たちだけのメンバーになると、自分たちは全く用のないにも関わらずに安心したように不機嫌になり続けるのである。
口でも手でも「喧嘩」こそしないが、よりによっての二人の不機嫌だ。
心臓に悪いとかってレベルじゃない。
実際桃城は誰にも言っていないがびみょ―に頭の一部が丸く、薄くなってたり、リョーマに至っては何故か肌荒れという症状が出ている。
首なんかつっこんでないのに。
え?変な電磁波でも出してるの、お二人なんか。

というわけで彼らが結論付けた身を護る手段は、「他の誰かと一緒にいる」しかなかったわけだ。
これだって一時しのぎ。
家に帰ればいいのだろうが、いい若いもんが家に引きこもってるのもどうかって話。
っていうかそれもつまらない。

「それこそデータないんスかぁ?乾センパイ」
「あるデーターはいっこだけだよ。
時間だけが解決する。ま、平均2週間てところだな」

「・・・・・・・・・・・・・・にしゅぅかん・・・?」
「げふっ?!」

そんなコトはないけれど、はきそうになった、ものすごく、ナチュラルに。



 04


始まりも唐突だったら、終わりも唐突だった。
それはそれは突然に終ったらしい。
ただ乾の言ったとおりの二週間だったことは、幸いなのか限界だったのか。
というか、大石に「おつかれさま」といわれてからはじめて、自分たちがなんとか件の事態を乗り切ったというのが理解できた。
っていうか、終ったのがよくわかったな、ってのも充分驚き。
その辺付き合いって奴ですか?

「なんだろ。すげぇ今"生きてる"って想ってる」
「俺たちなんもやってない上に、何にも関わってないんですけどね」
「それいうなら"あの人たち"も何にもしてないんだぜ」
「そうスよねぇ?大石せんぱいもなんで仲直りしたってわかったんだろ?」
「まぁ、付き合いって奴なんだろうけどなぁ・・・
わっかんねぇな、わかんねぇよ」
「わかりたくもないッス」
「本音が出たな、越前」
「まぁ・・・」
「現実俺たち程度の人間がわかっちゃいけねぇ関係なのかもしんねぇなぁ
かといってアレが理解できる方向に成長したいとは想わんが」
「同感。なんか色々失いそうッス。
人間を数値化しちゃうとか胃薬常備とか人間すらやめるとか」
「こらこらこらこら」
「でもそういうコトっすよね?」
「一応お前もそういう意味なら人間としてどっか欠けてるっていう点じゃ合格って気がするんだけどな」
「酷いこといわないでくださいよ、桃センパイ」
「・・・・・・・そりゃ申し訳ネェことを」




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 ED:結局なんだったんだ?っていう感じなのは
 桃と王子が基本メインな話だからに他なりません


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