EV DATE 不二と菊編。

乗ってるエレベーターが止まるのと、乗っている飛行機が落ちるのと、どっちが可能性高いんだろう?
しかも、この人と2人きりの場合込みで。

助かったら大石に抱きついた後で、乾に計算してもらおう。現実逃避というのは、一番幸せなときのことを追いかけることをいうと思う。

「あー、とまっちゃったねぇ、エレベーター」
未知の衝撃と刹那の暗闇の後、非常電源であろう、オレンジの淡い光が狭い空間を照らし上げる。
その声にきょとんとしていた菊丸は、ようやっと自分のおかれた状況を知った。

菊丸英二。何の前触れもなく、同級生の不二とエレベーターに閉じ込められた。

(何で?っていうか、ここ何処だっけ?あれー?何でエレベーター乗ってーでーどこいこーと思ったんだっけー?あにゃー?何で不二と乗ってるのぉー?)

パニックは現状をぶち壊し、とりあえず、どうしようか?って。

「えーと。ふじー。どうすればいーのぉ?」
「とりあえず全階のボタンを押すの。英二は見ない?暇つぶしとかに。選択ボタンの脇に書いてあるでしょう?」
あくまでその口調は穏やかで、「そんなことも知らないの?これだからおこさまはぁ」なんて心の中でぼやかれているとかいないとか。そんなこといわれている気がしそうな気がするのは何でだろぉ?別にあの不動峰の奴みたく、ボソボソ言葉が付け加えられているわけでもなさそうなんだけど・・・一応、言われたとおりにする。
が、反応なし。動きもしなきゃ、開きもしない。
「で?」
「電話のマークがあるでしょ?おして」
「はいー」
なんでそういえば、言いなりなんでしょう?自分。
いえ、何にも聞かないけれど。逆らわないけど。
けど、助けに来てーおおいしー。エレベーター内からでなくて不二からー。
なんて思っていながら実行する、紅い普段は意識もしないボタンを押して。
受話器をとって、耳を当てる。何度めかのコールの後の他人の声は、それだけでなんか力が抜ける。
が。
 「後1時間ぐらいですかねー」
「え?」
 「まぁ、気長に待ってください。騒ぎになるほどのトラブルでもないので」

そー言えば、誰か言ってたなぁ。「神様仏様」って祈るのは、両方が喧嘩しちゃって逆に効力無いとか、ないとか。
だから菊にしてみれば、祈れるのは同じ会った事はなくとも、少なくともすぐ喧嘩する、すっごいえらい存在(ひと)達じゃなくて、見えない天の代わりに目に飛び込んだ、整備会社の名前だった。

普段クラスメイトなんぞやってると、相手の機嫌というのはいやでも察する必要がでてくる。例え、気付きたくないってときも。

(えーん。何で不二ってば黒仕様なんだよぉ)
ちょっと開眼しちゃって、口元は何時もみたいに綻んでいても、何より周囲の空気の密度と温度が微妙。気のせいだと思いたいけど、陰のほうでなんか蠢いていない?気のせい?
「ねぇ、英二」
「は、はひー」
唐突に向けられていた声も、僅かに鋭い気がするし?ねぇ?
「で。結局、大石とはどこまでいってるの?」
「ふみゃぁ?」
何をいきなり唐突に。足音立てずに近寄ってきた(だから何時―?!)不二の、思いがけない問いに頭が白くなる。っていうか、どういうこと?それは。
「不二・・・あのぉ、一体何処までって・・・」
「だーから。交換日記で満足程度なのか、それとももーちょっと少女漫画張りの虐めとか三角関係とか期待しちゃってる程度か、ちゅーぐらいは日常茶飯事って言うか既にマンネリかぎみなぐらいでもうちょっと次のステップいってみたいなーなんて考えてなくもいないのかもしくは米国の一部地域じゃぁもぉとっ捕まっても文句はいえないぐらいハードに一部のお姉様方の期待そのままの実は結構いろんなプレイ済みってぐらいの関係かってこと」
距離、5センチってとこまで顔つきつけて、一体何を聞いてくださるん?不二様ってばさぁ。
「あのーおねーさまって?」
とりあえず、聞ける程度から拾ってみるが。
「知りたい?この僕でも後悔したアンダーワールドな夏の有明の実態・・・」
「やっぱいいです」

この、この不二すら恐いって・・・あれ?でも姉ちゃんたちも行ってたよぉな…夏の有明・・・って。何やってんだよ姉s!っていうか、今は不二なんだってばさぁー。

「お、大石とはダブルスのペアで心の友と書いてのしんゆーでー」
「なんてお約束且つ単純な建前はいいんだってば。で、本当のところ、どう?」
  にこにこにこにこにこっここここ。
 あぁ、迫られてるようにも見えるけど実は俺ってば脱水症状進行中とか言ったら誰か信じてくれる?
っていうか、ふじー。こわいよぉー。おおいしたすけてー!
っていうか全部、大石の甲斐性無が悪いんだ。あの生真面目てんねんがっ、全部!ってぁあ。もぉ八つ当たりっていうか現実逃避って言うかー。
「あの生真面目+鈍感が俺が誘って気付くと思ってるの?!俺がモーションかけても全然だよ!キスだってちゅ、って程度かいっちゃってもアイス口移しぐらいでー」
「じゃぁつまるところ、まだあげてないんだ、英二は」
っていうか。あの、ふじ?・・・あげてないって何を・・・?って。
「あんまり下品なこと言わないでよ!」
「でもつまり、そういうことでしょ?そっかー。大石もまだ多分ないよねー。ふーん・・・」

「ねぇ、不二・・・さっきよか、距離近い気がするんだけど・・・」
菊の心から悲鳴なぞ聞く耳持たず、近付いてくる男が1人。
「なに英二。僕の好意、いらないの?」
「こ、こーいって・・・」
「上手なキスの仕方知りたくない?」
その時、不二の目の奥が光った、と後に菊丸は証言する。誰にかは不明だが。
「っ!いらない!キスは大石にしかあげないの!」
 途端、不二爆笑。
「へ?」
「やっぱ英二良いね♪じゃぁ精々大石の為に操守っててよ。尤も、あの奥手の事だから卒業式まではおあづけかもねー」
聞くがありうる、と思ってしまった瞬間、エレベーターのその独特な振動と体感がよみがえる。
開く先で出会えた、心配性的少年の顔を見るその瞬間まで、不二のさっきの言葉が離れなかったりもしたが。
今はとりあえず、体温を感じられる距離で満足することにしようと思ったらしい。



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