「ごほうび」 「あ、海堂」 関東大会閉会式終了後。 部長代理の一声で解散したメンバーは、思い思いに散っていた。 いつもだったら「打ち上げ」の流れなのだが、おそらくみんな、本来の部長の不在を多少なりとも意識していたのだろう。 誰一人、この展開に異議を唱えはしなかった。 むしろ騒ぎは好まないし、毎回の事ながらよりにもよって商売でしている先輩の家でご馳走になることには気が引けていたので海堂はむしろほっとしながら帰路を選ぶ。 桃城と越前が声高にハンバーガーショップに行くと騒いでいるのが聞こえる。 不二と大石が、一つの携帯を交互に使って誰かと話していて、その脇では菊丸がおとなしくまっている。 河村もじゃぁねとすこし慌しげに帰宅を告げている。おそらく、家の手伝いがあるのだろう。あれだけの試合をしたあと、それを当然と思っているあたりが一番尊敬できる。 他の応援連中も多少なりとも興奮気味に今日の試合を反芻しながらも帰るための徒歩を選んでいた。 その、中で。 なぜか声をかけられることを無意識に除外していた人から、当たり前のように声がかかり、少しだけ驚いた。 「先輩」 「あの、さ。タオル・・・」 少し言いにくそうに一つ年上の男は言葉を切った。 めずらしいことだ。彼はいつも言葉を全て選んで辛口にする人なのに。 だが意味そのものはすぐに察することができた。 今日の、立海戦。S3。 彼の荷物から勝手に引っ張り出すこともできず、海堂は自分の予備のタオルを試合後汗だくになっていたこのひとに渡した。 そういえば返してもらっていなかった。すっかり忘れていたけれど。 「いいっすよ」 「え?」 「使ってないやつですから。あげます」 いってから先輩相手にもう少し気が利いた口ぶりは無かったのかと後悔する。 まるで他人の使ったものだからもういらないといっていっているみたいだ。 少しだけ、自己嫌悪を抱く。 しかし言われたほうは一瞬だけきょとんとして、不意にゆるく笑った。 「じゃぁこれ。海堂からのご褒美だね」 「え?」 今度は海堂のほうが言葉を失う番だった。 一体何を言われたのか、いまいち理解が及ばない。 「今日の試合の、勝てたご褒美」 もう一度繰り返されて、今度こそ理解した頭は頬を高潮させる指令を出す。 「んなっ」 「ありがとう。すっごいうれしいよ」 たかだかタオル1枚にすごい意味をくっつけた乾の笑顔は、少しいつもよりも子供じみて映った。 様子が様子なので、今更「返せ」とも言えなくなった海堂はうつむいて言葉を飲んだ。 帰ろうか、とうつむいた原因の男が、言い出すまでどうしようもなく、ただ突っ立っていた。 「先輩」 「ん?」 帰路は思っていたよりもずっとあっという間だった。 会場との位置関係で乾の住むマンションを通って家路へと向かう流れの中、海堂は意を決して傍らの人を呼んだ。 終始ニコニコ顔の乾は本当に普通に答える。 おそらく、何て声をかけられるかなんて、彼としては珍しいが、からっきし考えていないに違いない。 「・・・・・・タオルは、後輩としてのご褒美としてあげます」 「え?あ、うん」 「それで、その・・・あの。恋人としての、ご褒美をですね」 「・・・・・・へ?あ、う、うんっ」 つまりつまり言った申し出に、不意に乾の声色も変わった。 二人して今から入るマンションの前で、真っ赤になる。 人通りはない。 もっともそうでなければ、海堂はこんな申し出を言えるはずも無かった。 とはいえそれ以上ともなればこれはまた難関で、口の別様とを使って彼はその続きを形にした。 「・・・・・・・っ」 ぶつかるようなキス。 ほんの刹那の。 「んっ」 「今日は、おつかれっした!」 とんでもなく恥ずかしくてやり逃げ仕様とした海堂は、すぐさま乾の腕にとらわれた。 熱い。 自分が?乾が?わからない。 「足りないよ、海堂」 声も熱を帯びる。 そういえばつかれているときに限って、男ってやけに盛るんだよな。 ほんの少し現実逃避しながら、海堂は促されるままやんわりとふさがれた帰路をあきらめた。 「わがままっすね」 苦し紛れというより、少しだけの反発。 「そのくらいの働きはしたつもりだから」 「自己満足の上に、勝手なゲームだったくせに」 「やきもち?」 「いってろよ」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
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