わすれないで
わすれないで
人は一人じゃ生きられない
生きていることは認められない
ひとり+ひとり≠こどく
金木犀の甘い香りの中で。
綺麗な顔で、綺麗な声で。
彼は歌うように告げた。
「<僕にとって手塚は特別>」
「?」
「それだけは忘れないでいて」
囁くような言葉とともに、手塚の肘に不二の形のよい唇が寄せられる。
布越しではあったがそこには確かな熱が残り、甘い気配がなごって離れた。
「不二…?」
「テニスをしている時の君が好きなのは確かだけど、忘れないで。
僕が好きなのは、手塚国光という存在だから」
「・…」
どこか、祈るような口調だというのは下らない期待だろうか?
付き合っている、というには、あまりにも距離のある2人。
睦言のように交わされる言葉は慣れ合いや言い訳を帯びているようだけれども。
「自分を否定しないで」
「そんなつもりはない」
「違うよ。青学テニス部部長としての、でもなくて、もちろん生徒会長としてでもなくて…あぁ、もう何言ってんだろう僕…」
めずらしくパニックの色を見せている不二の真意を測りかねて、手塚は眉をひそめた。
言葉が、妙に浮いていた。
らしくない、と口にするのは憚られて、結局沈黙することしかできなくて。
もどかしい、と思う自分に驚いた。
「とにかく。手塚国光、という人物そのものが大切であって、だから・・・手塚は、手塚でいてってことなんだけど・・・わかんないよねぇ」
「俺はいつだって俺なんだがな。おまえになった記憶もないし」
「そんなのよくわかってるよ。まったく、天然てこういう時不便だなぁ。
言葉が通じないったらないよ・・・
だからね、つまり」
手塚は、手塚としてのテニスをして。
青学とか、部長とか、そんなのぜんぜん考えないで。
「・・・約束はできないな」
「するの」
言い切った手塚に、不二もまたきっぱりと言葉を返す。
なきそう、とか。そういうことは一切ない。
それなのに、どこかがいたい、目線。
「手塚として約束して。部長としては約束できなくてもいいから」
君が、君であるために。
消えた言葉の行方は、甘く交わされた唇の裏側・・・
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