あぐり・あぐれろ 01 青学テニス部は万年ザイセイナンです。 「というわけで起死回生を狙って自社?ブランドを売り出すことに決まった」 「というわけ?」 「自社ブランドって・・・何つくる気、一体」 さも当然そうな手塚元部長の宣言に、耳がほんのりことの把握を拒否し続ける。 同輩たちの目線をものともせず、かの大将は微かに顎を動かすことでマッドサイエンティスト?に先を促す。 「というわけで俺が創った新品種のサツマイモ、青学]を」 「本当にサツマイモなの?それ」 「っていうか今が収穫時期だけど、サツマイモ」 「勝手にそういうのって売ってもいいのかなぁ?」 「それ以前に安全性疑うところだけど・・・てか何処に植えるの」 「で、美味いの?」 だが周囲の反応と言えば、言いたい放題が目一杯。 そうじゃないメンバーがいない、っていう話だけれど。 「引退した部の為に一肌脱ぐのはやぶさかじゃないけどさー、手塚。 そのほかのツッコミ、ちゃんと聞こえてた?」 「ふむ?あぁ成長云々という辺りか? 何故乾印などという代物を提示したのだと想っている」 「・・・・・・」 「大丈夫だ。今回は食用ではないからな」 さすがの俺もあれを食べたいとは想わぬからな。 あれ? どれ。 「3日で食べごろの3倍ほどになる化け物芋のことだ」 ・・・・・・・ 「いや、生命の神秘だね」 いやいやいやいやいやいやいやいや 「何その物理法則スルーの怪奇現象!」 「土とか駄目にならない?っていうかヤバイでしょ、それ」 「インドキュウリは一日で30cm延びるんだぞ?真っ当な品種で。 芋くらい普通普通」 んなアホな。 「大体食べない・・・てか食べたくない芋ってどこに売るんだよ」 「個人的には好きではない事業だが、背に腹は変えられん。 燃料研究の方だな」 「いもくってへーこいてそのエネルギーの活用?」 「英二、それ結局食べてる」 「あ」 「・・・・・そこかよ。てか日本でそれやってたっけ?※国とかじゃなかったの?」 「うむ。日本の場合は生ゴミだの廃油だのが主な研究対象だからな。 もっとも新潟ではコメからの燃料の販売を始めたようだが」 「なにそれ、もったいなーい」 「それが一概に想とも言えないみたいなんだよ、英二。 いかんせん、休田を利用しているらしいから」 「休田?おやすみの田んぼ?」 「おコメを作る量を調整しているんだよ、色々あって」 「・・・・キャベツ一杯獲れたからって潰しちゃうみたいな?ニュースでみたことある」 「一応、この場合は最初から創らないというのが一点、そのつくっていないところに作物を植え、それを活用しようというのが一点なわけなんだけど」 「変な話。食糧難とかって何処行っちゃってるの?」 「まぁね」 「とりあえず、輸出となると貿易用の資格も必要となるんだが」 「なら技術売るとか」 「逆にこんな胡散臭い技術、買わないだろう」 「・・・・・自覚はあるのか」 「俺すらさすがに味みてないからな」 「つくった本人!」 「関係ないよ。まぁ、そういう研究してるトコ構えて、売り込もうってノンタン、もとい魂胆だ」 「いらない。そのボケはいらないっ」 02 「これを・・・」 「たがやすのぉ?」 「うむ」 手塚の(びっくりするくらい)偉そうな皇帝に、一応クワを持っていなかったら、きっと英二と不二は殴りかかっていたことだろう。 っていうか。 「トラクター持ってきてよ」 「コスト削減の為、却下だ」 「あぅう」 オオイバリ。 背中に「でーん」と付けたくなるくらい、偉そうに何いってるのこの人。 当初の「疑問」の一つへの回答は、想わぬ方向で応じられたわけだけど、それ以上に「酷い」現実が彼らの前に立ちふさがっていた。 文字通り。 ざっと見てテニスコート10面くらい? 都会といえどのどかな地域だ。 山に近いほうになれば空き地も珍しくないのだが・・・ 問題ない。私有地だって。 荒れた地っていうんだよ、こういうのは。 石はごろごろ、草はぼうぼう。 ひろびろと、荒れ果てている。 「別に僕たちDA○H村つくるわけじゃないよね?」 「勿論だろう。大体DAS○村のようなちょっぴりお茶目な農業指導者や借りてこられるトラクターもない。 言えばアレだ。とんでんへ・・・」 「もっとヤだよ?!それっ」 しかもなんで開拓民? 過去の方々にあやまれ。 「とんぺーやき?」 「解らないほうがいいよ、英二。 とにかく、手塚。素人じゃ少々ここは難だよ。 いくらさつまいもの基本はさほど越えた土地じゃないにしても・・・」 「あー、そこなんだけど」 申し訳なさそうに、言葉を挟んだのは乾。 「?」 「ごめん、モノがものであるだけに、むしろ肥えている方が助かる」 ・・・・・・・・・・・・ 「乾」 「なんだ?英二」 「提案!これ、筋トレ的メニューになんない?開拓っ」 ・・・・・・・・ どこからか、木魚の音がしてくるような錯覚の中、皆の目線が乾にあつまる。 いわば拝んでいるような仕草で。 所詮この身は一つだというのに。 って。 それは他のメンバーにも言えることだ。 コレを4人はむしろ拷問でしょう? しかも実質見返りはないんだし。 後輩の感謝で腹が膨れるはずもない。 「っていうか、感謝らしい目ってイメージがない。 主に桃」 「食べられないしね」 「あるね」 むしろ不機嫌になりそうだ。 金より差し入れのが喜ぶタイプ。 「で?どうだ。乾」 さすがに自覚がなかったわけでもないらしい。 手塚の促しはある種、非常に助かる。 「100%変な筋肉がつくと解っていても・・・ 仕方がない。ドカタな花組なんて、俺もみたくないしね」 (ご愁傷様) お母さんもそんなことを想ったが、口にはしない。 苦労は皆で分かち合おう精神は、何処の国でも時代でも息づいている。 「まったく。すばらしい友情だな」 「うん、君が一点の曇りもなくその台詞を吐く事実に僕はむしろ感動するけどね」 03 「というわけで」 「・・・・・・・」 なにが?という後輩どもの目線に、にゃんこが笑う。 「なに、修行修行」 「練習でなく?!」 俺らテニス部ですよね? いくらジャンプ仕様たって、中学生の部活ですよね? いや、勿論新シリーズは違うけど、もうちょっと上みてるけど。 いやいやそこじゃなく。 「突っ込みたい気持ちもわかるけど山ごもりとかしている桃の言葉に説得力はないよ」 「うぐ」 はい、負け。 いや、勝ち負けよりも気にしなきゃならないものがあるような気が。 「因みに農具の提供は御近所の山海高校の方からお借りしてきました」 ・・・・・・・・うん? 「山海高って農業高校だっけ?」 「いや、そんな話は聞いて無いな・・・」 来年、一応受験生な2年組がクビをかしげる。 一応素直に上に行くつもりでは在るのだけれどやっぱり気になってるし。 いや、それより。 「で、なんで俺たちが開墾しなきゃなんないんですか?」 「修行だと伝えただろう?」 「大真面目に酷いこと言われたー」 「つーか荒井達でいいんじゃないんスか? なんでレギュラーなんですかっ」 「そんなの簡単だよ。 ・・・・・・・・レギュラーレベルじゃなきゃ、ここにはこれないんだから」 ・・・・・・・・・・・・・ ふと呼び出された件のレギュラー・・・但し新しい連中がいるはずなのにソレをスルーされての古参?レギュラーの1・2年トリオは顔を合わせた。 思い出したのだ。 ・・・・・・・・・自分たちが登ってきた獣道を。 「あー。確かに堀尾辺りは途中でぶっ倒れるな」 「っていうか昇れるようにしないと駄目なんじゃ・・・」 「どんなレギュラー必須科目だよ・・・」 「というわけで、がんばろう」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「がんばんなきゃ駄目なんですか?」 「いったろ。修行しゅぎょう」 ・・・・・・・・・だから。 おかしいってわかってるだろあんたら?! 04 彼らは目を見張った。 っていうか、これはキイテイナイ。 「な、なんで3日で芋ができる・・・」 「あー、話してなかったっけ?」 そういう種類なの。 種類ってレベルの話ですか? そういうレベルにしちゃうのが乾仕様。 ・・・・・・・・・・・ 「あー、乾先輩なら仕方が無いか」 「そーっすねー。しかたねーか」 「仕方ないんだ・・・」 それにしても。 辺りをみる。 頭が痛い。 「・・・筋肉痛まだ残ってるうちに、収穫に借り出されるなんて想ってなかった・・・」 「筋肉痛?あるのか」 「普段使わないとこばっかつかったんですもん」 「それもそうか」 「まぁ、がんばろ。収穫すればおしまいだから」 「で、コレどうするんですか?」 食うの? 「売るの。元々テニス部軍資金の為のなんだから」 「売り手きまったの?そーいえば」 「うん、それが」 「跡部のところの開発が引き取ってくれることになった」 「は?」 「開発?」 「詳しいことをいうと桃が不機嫌になりそうなので省くけどね。このおいも、あんまりおいしくないんだよ」 「まぁ乾先輩が作った段階で喰いたいという欲求はありませんが」 「馬鹿正直に残酷ありがとう。 まぁそれなら安心かな」 「っていうか手塚、よく跡部口説けたね」 「なに。氷帝との練習試合で話をつけた」 「・・・・・・・・・・へ?」 「向こう持ちの合宿だ。 豪華になるぞ」 「なるぞ、はいいんだけど・・・」 「・・・・・・・・・・勿論、我々も参加する」 「それ、どう聞いても練習試合とか合宿じゃないんじゃ・・・」 「どっちかっていうと拉致監禁、だな」 「強い奴と戦えるなら、俺はなんでもいいけどね」 「問題は戦えてもその前にコレ全部掘り起こすってとこからなんだけどな」 「あー」 ・・・・・・・・それ、どんなハンディになるよ? 耳障りな猫の声が多かった。 いや、神戸の同級生なら、別の感想を抱きそうなものだが。 そんなふとした郷愁がもしかしたらきっかけだったのかもしれない。 彼はそちらへと足を踏み入れた。 それは日の光当たらない日陰の裏路地で、ほんの少し、物の古くなった匂いが鼻につく。 「・・・・・、ふむ」 首を傾げて周囲を見渡すと、人の気配を嫌ったらしい、何匹かのネコが逃げていく。 「・・・・・」 その中で、ひときわ大きく、そしてひときわ異質な存在がじつとこちらを睨みつけてくる。 「・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・」 「ふむ」 零れた声に警戒したのだろうか。 ぐっと足元が一度沈む。逃げるつもりなのだろうが… 「こういうのを放って置けるほど俺も薄情にはなりきれんのだがな」 「・・・・・・?」 意味を図りかねて首を傾げる「彼女」へと一気に間合いを詰める。 声を上げる暇もなかっただろう。 閃かせた手刀は開いた腕へと彼女を誘う。 「・・・・・・・・さて」 汚れてはいるが、その手先も足も傷はあまりみられない。 このアスファルトの街中で丈夫なことだと想う反面、それらの見かけどおりの幼さ、やわらかさに不審なものを抱く。 いやそれよりもその格好やら様子やら、おかしいところを上げればキリがない。 「問題は俺が不審者としてではなくどうやって家まで帰るかということなのだが…」 どう分析をしても不可能なことを口にしてから、誰かを頼るしかないかと思いなおす。 「さて、誰が捕まるかな」 携帯電話に登録されている、車所有している知人を片っ端から思い出しながら、手塚国光は「あの」恋人だってドンびくような物騒な笑みを口元に乗せた。 |
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