あんな曖昧な表現であったとしても
効力があったということは幸運だったというべきだろう
ETUDE
夜神 月。 デスノートを他者に触れられてから140秒後に心臓発作で死亡 |
「え?」
Lは今自分が手にしたノートの末尾に帰された一文に、自分でも驚くほどに無防備な声をあげた。
連続凶悪犯殺人事件の最有力犯人候補の持ち物である、DEATH NOTEと書かれた一冊のノート。
其処にはこれまで死んでいったものたちの名が連ねられている。
勿論、ただの記録の可能性もあるに違いないのだが、其処には「死亡した順」ではない配置があった。
「あぁあ、見つかっちまったな、ライト」
Lの混乱を嘲笑うかのように、彼に対して名を呼んだ存在があった。
この部屋、には。私、と、彼、以外は・・・・
「そうだね。これでゲームオーバーだ」
彼は自分の、丁度背に立つ存在に、いつもの本音が読みにくい笑みで応えていた。
それは、その存在が、彼にとって
日常であると言う証。
「生憎、そのノートは僕が<終わる>以上、君の手には残らないよ、L。
そうだね、リューク」
「あぁ、所有者はライトにあり、ライトが死ぬ以上権利は俺に還る。
回収は義務だ」
それはよかった。
彼はそう、笑った。
心の其処からの安堵したその表情を、Lは初めて見た。
信頼深い、緩やかな思いの「形」。
それが、キラと言う存在を護ってきた何よりの「傍観者」。
「L,それがきみの欲しがっていた全ての答えだ。
そして彼が。答えの始まり。紹介するよ。死神の、リュークだ」
「しにがみ、ですって?」
第2のキラの事件の時、他でもなくこの目の前の人物が否定した筈の「存在」。
しかし黒を纏ったその「異形」は確かに、死神の名に相応しいと思わされる。
黒いフードと大鎌など、所詮人の生み出したイメージに過ぎない。
何より本能が告げている。この異形が、死を司る存在であると言うこと。
「余り長い時間を設定しなかったのは失敗だったかな。
考えてみれば、君が全てを納得したとはかぎらなかったんだ。
そのノートを、手にするタイミングを」
その、ノート。
黒く奇妙な存在感を有する、一冊の・・・死者の名を連ねたノート。
「まぁ君が訳のわからないまま放っておく方が、愉しいのかもしれないね。
君が終わるまでに、果たして君は全てを手に入れられるのか」
ふふふ、と。
とても綺麗に、そしてそれと同じだけ暗く。
笑った彼の身が緩く傾いだ。
「やかみくっ・・・」
キラとしてではなく呼んだ何、彼は反応しなかった。
ただ当然のように、背中の存在に、闇にその白い身体を預ける。
もう、事切れようとしているのだろう・・・
ありえない。ただ、文字にしただけの言葉が現実になるなんて。
しかし確かな核心の中、まるでその滅び行く身体を私に触れさせはしないといわんばかりに
「さよなら。・・・・・・・」
彼の、最後の言葉は、彼が、知らない筈の、私の、真名。
「お前の、せいで」
膨れ上がった名のわからぬ感情を、闇にぶつけた。
闇はその腕に白い彼を抱き、無感情で胡乱な目をこちらに向けている。
「おまえのせいで、夜神君は・・・!」
「選んだのは、月だ」
死神だといわれた闇が告げた。
攻められること事態、理解しがたいとでも言わんばかりに。
「ノートは示しただけ。記したのはライト。俺はただ、見ていただけ」
ゆるりと闇が腕を伸ばした。
手の中のノートの重さが消えた。いや、映ったと、そういうべきか?
「彼を、どうするんです?」
片手にノートを、もう片腕には彼を。全てを手にしている存在に問う。
死神はにたりと笑い、そうさな、と呟きとも答えとも取れる言葉を音に変える。
「向こうで・・・・・・世界を変えるだろう月に、ついて回って退屈じゃない毎日を過ごすさ」
ばさり、と。
闇が空気を孕んで彼を連れ去る。
伸ばした手は当然のように空を切り、問いたいことが嵐のように頭を、感情を焼くのに何も出来ない。
黒い腕に抱かれた彼が、余りにも満たされていたから。
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