かの存在しか声が聞こえない
心地の良い悪夢だ、それは。
NO SOUND
最初に見たのはどこまでも続く荒野。
緑の気配は欠片となく、何処か息が辛い印象ばかりを感じる。
だが、どうしてだろう?
寂しいと思わなかったのは、多分。
背中の体温が確かだったから。
「よぅ、リューク」
「おや、久しぶりだな」
自分の中で新しくなった「現実」を確かめるように歩いていく中で、傍らの黒い異形が、別の様々な異形たちに声をかけられている。
それに適当に手を振るだけの挨拶を交わして、まるでそれらから隠すように僕を抱きこむ。
流石に、普通の付き合に嫉妬するわけないんだけれど。
もしかしたら彼は、「向こう」にいる時、こんな些細なことですら嫉妬していたのだろうか?
異形たちに比べればすっかりと小さな身体は、うまく隠れてしまったけれど、ふいに誰か一人が僕の姿を認めた。
「そこにいるのは<新人>か?」
一人が気付けばあとは雪崩だ。
日頃からすることが無くて退屈をしている連中だ。あっという間に僕らは囲まれる。
「ひととかわらない」
「きれいなにんげんだ」
「ノートをつかったのね」
「これからどうかわるのか楽しみだ」
「死神としても、これからだな」
その言葉たちは鏡の無い、今の自分を知る手立て。
そしてこれからの自分をも、知ることが出来るのだ。
今の自分は「人」であるということ。
そして、これから「変わる」と言うこと。
姿も、多分・・・・・その思考も。
「近付くな!これは俺のだ」
考え込んだ僕を無視して、黒い腕が僕を包んだ。
突然の浮遊感。
視界から見慣れない異形たちが引き剥がされ、やがて一気に小さくなる。
「あ・・・?」
「ライトもあんな連中に愛想よくするな」
「愛想、良かった?」
「よかった」
ふてくされた声なんて、初めて聞いたかもしれない。
それがとても嬉しくて、照れくさい。
「じゃ、しない」
気をつけよう。
ま、たまにはこういうのもわくわくするけれどね。
あ、そういえば。
「ね、僕も飛べるのかな?」
「多分出来る筈だぞ」
人間界に降りるのに、必要だからな。
死神は生真面目にそう答えてくれた。
「なら是非練習したいな」
「あとでな」
素っ気無い答えが返って来たけれど、自分を抱きとめる腕は僅かに力を強めた。
「素直じゃないなぁ、リュークは」
「別にライトを効抱えているのが愉しいからじゃないぞ」
「そういうことにしておいてあげる」
異形たちの住まう世界の空は、何時までも晴れる様子も無い曇天模様。
でも他に飛び立つ存在は無くて、だから灰色がかった白い空はどこまでも2人きりだった。
あるのは僕と君の声だけ。
「とりあえず、もう少し、このままでね」
「了解」
見下ろす世界はどこまでも荒れている。
でも、ここが自分の選んだ世界。
そう思うと、いとおしくて
これから、自分の手でこの世界を変えていくのだと思うと。
むしろやりがいと誇らしさを憶えた。
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