飴はいつか舐め終わる
甘い時間は、いつか終わる
SUGER CANDY
退屈ではなかった。
やせた大地で、辛うじて手に入るものを使って、林檎の木を育てるという行為は。
だけれど。
「そろそろ、いこうか」
ポツリと呟いたライトに、黒い死神は聞きなれた笑みをこぼした。
「そうだな」
そしてそれだけ答えて、ばさりと黒い翼を伸ばす。
見違えるほど成長した林檎の木に群がっていた死神達は、自分たちの嗜好品を成長させた存在になど目もくれない。
ただ少し距離を置いたところに腰を下ろしていた白い異形だけが、そんな2人の会話にふ、と笑った。
「いくのか」
「あぁ。いってくるよ、レム」
緩く笑いかけたライトは、その背に艶やかな膜質の黒い翼ではなく、どこまでも儚い日の光色の、柔らかな羽根を湛えた翼を広げた。
それはこの世界にあって、これまで生まれたことの無い色と質感。猛禽のそれに近いが、確かに美しいのだ。
「堕天使、か」
白い死神の呟きに、新人だが誰よりも仕事熱心な死神はふと笑った。
顔見知りの評価に、少なくとも満足はあったようだ。
「いこう、リュ―ク」
「あぁ」
ばさり。ばさり。
果たして風など必要なのかもわからないのだけれど、イメージとして翼は何度と無くはためく。
飛ぶには近すぎる気がする距離で、黒と金色の翼が下界へと向かう。
白い死神は無言でその姿を見送る。
会いたい存在が彼の頭の片隅をふわりと抜けた。
我侭で自己中で、それ故に純粋な幼い少女。
彼女は自分を覚えていない。
それは確かなことだ。
だけれど。
「ミサ・・・・・」
もうすぐ。きっと逢える。
死神は時間に対して抵抗を覚えない。
一度ノートの「所有者」になった彼女は、いつか自分の前に現れるだろう。
「お前の名前を、名付ける日を待っているよ」
あの2人がうらやましいと思う反面。
そんな楽しみも、きっとあるから。
怠惰な世界であるだけがこの世界ではない。
彼らのように、何もかも楽しめるように。
先ずは彼らの成長させた林檎を一つ、齧ってみようか。
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