そう。例えるなら
彼らは「事象」なのだ
CITY MAZE(7)
「死神、ですか」
長く彼の元で働いてきた男は、確かめるように主の口にした単語を復唱して見せた。
死神。
それは云わば「つくりもの」の名ともいうべきものだ、と男は思う。
人が、死ぬ理由のようなものを欲したゆえに生まれた、戯言のかけら。
思うことを口にすると、主は然りと頷いた。
そう。戯言だ。
まるで彼は他者にそう定義されることを望んでいたかのように、何度となく。
「しかしながら」
ほろりと。その言葉の意図を不明瞭としながら、男は口を開いていた。
死神と聞いて。
主が入れ込んだひとつの事件を思い出した。
「キラ、の事件の際は」
「・・・・・・・・」
「死神という存在に、翻弄されていたような。
そのような気がいたしましたな」
罪人を狩る影なき存在。
そういえばあの事件は、結局解決していないまま、結末だけを迎えたと主は告げた。
それは、それ以上追う事を許さないという意味だと、男はすでに悟っていたので、出すぎた真似を、と自らの発言に謝罪した。
主はまるで何もなかったように、ちょうど空いたティーカップを目の前に差し出した。
男はその行為の意図を汲み、ゆっくりとした仕草で紅茶を入れるその作業に移った。
死神。
なぜ主はそんなことを聞いたのだろう?
男は何度となくその疑問を抱いたが、勿論顔にも出さないし、問うようなこともしない。
ひざを折ったあの時から、彼こそが正しいと信じている。
男は知らない。
主の傍らには黄昏色の美しい異形が、ゆるくその魔性の笑みを浮かべながら2人の会話に聞き入っていたことを。
キラという言葉が、部屋に生まれたその刹那、堪え切れぬ様に甘やかな嘲笑を立てていたことを。
主がその声に、いつものように唇を食んだ事も。
男に、知るその権利は与えられなかった。
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||