「ライト、あれはなにやっているんだ?」

死神はなんにでも興味を示す。

今日も下らないドラマの再放送を見ながら、ワクワクと人の行為に意味をほしがっている。

「何?」

「男が女に指輪を送っていた」

「あぁ」

すでに件のシーンは流れていて、女優が男優に対して答えているシーンになってしまっていたが、何のシーンであるかぐらい簡単にわかる。

「指輪はね、一生一緒にいましょう、って言う意味だよ」

「ふぅん、じゃ、あれはなんだ?」

解消された疑問はすっかり流されてしまう。

それは日常で、些細なことで。


そしてもう、覚えていることすら許されなくなった、過去の話。








・・・・・・かみのゆびわ・・・・・・






帰りたいと強く思うようになったのは、つい最近のことだ。

場所ではない。

おそらく、かつての自分。

今こうやって閉鎖された広くて狭い空間に押し込められた、新月のような自分ではなくて、今は確かに理由を見失ってはいるのだけれども、確かに存在していた、満たされた夜神 月として。

錯覚かと時折不安になるのに、言いや確かなことだと思い直す。その繰り返しを続けている自分の中の「何か」への根拠がわからなくて、いらいらしてたまらない。

腕に巻きついた銀色のかせは、それを取り払うことすら許してくれない。これでは自らが求めている「かつて」を・・・・そしてそれはおそらく、この枷の先にいる男の求めるものであるのかもしれないという予感を否定しないが、確かに追い求めているそれを探しに行くことすらできやしない。

見つけなければいつ葉なれていってしまうかわからないのに・・・・


「はっ」


何を、僕は期待しているのだろう?

自分のうぬぼれに、自嘲がこぼれた。

枷の先にある楔が、嘗め回すように人の思考を読み取ろうと無遠慮な目をぶつけてくる。

僕がほしいのは


お前のその、探るしかない批評家の目じゃない。


僕が、求めているのは・・・・・



もう届かないところにある、幼子のような好奇心の目。




「どうしました?夜神君」

「あぁ、ちょっとね」

自己嫌悪、実施中。

こういう状況を作ってしまった自分への。

思えば、何から狂い始めた歯車なのかもわからない。



「キラは」

「?」

唐突に探偵がつぶやいた。

長いことこういう風に奇妙な距離でいるが、どうにもなれない、その作り物めいた口調。

「逃げ水のようですね」

「・・・・・・蜃気楼の?」

「あれは地面が熱せられ、表面が水で濡れた様に見える気象光学現象です。
勿論、手に届かない、追いつけない幻のもの」

「気弱だね、竜崎。
キラを捕まえると、決めた君がキラに届かないなんて言ってどうするんだい?」

「えぇ。勿論、追いついて見せますよ。ただ」

「・・・・・・」

ただ。

探偵の目が再び、この僕を映す。

追いついたはずだ。

暗に主張する目が・・・・・むしろ、哀れだ。


「なんだい?」

「・・・・・・いえ」

あからさまにそらされた目に、未練などない。変わりにふっと口元が開放感のため息をこぼした。

とたん。まるでその吐息を最後の鍵としたように、音を立てて忌々しい枷が外れた。


「え?」


流石に目を丸くしてその予想外の破片に探偵と2人見入っていると、その原因を求めて座り込んだ探偵の知らない視界の中で、ふわりと奇妙なものが浮いていた。

ノートの切れ端のようなものを紙縒りにして、しかもわっかの形状をした、それ。

子供だってもっと器用に作るだろう。正直下手だとしかいえない、でも確かに、それは指輪だった。


(一生、一緒に)


フラッシュバックする、噛み砕いた自分の口がした説明。

彼が覚えていたのだろうか?

信じられない。


「      」


手に取ることに、今更躊躇いがあるだろうか?

あの日から、決めていたことだ、全て。




軽く、乾いたそれは、確かにあのノートの感触を内包していた。

そして月は、再び自らが満ちるのをたしかに感じた。




「夜神君。見てください」

探偵が壊れた枷のかけらを拾い上げて神妙に声をかけて来た。

「ほら」

「どうしたんだ?」

立ち上がりながら、差し出された枷は、まるで細い釘のようなもので幾重にも引っかいたあいまいな傷の積み重ねの中で崩壊をきたしたように見えた。

勿論、これをつけていたのは月だ。

その本人以外、こんなことをするはずがないのだが、それは人の行動とはとても思えなかった。

その傷は、内側からつけられていたし、音がしない傷ではなかったからだ。

すぐそばにいた探偵が、その観察力でこれまで気がつかなかったこと事態、おかしい。

「夜神君は、覚えがありますか?」

「まさか。なんだ?これ。ぜんぜん気がつかなかったな」

素直に驚きを口にし、目を丸くする月はいつもの存在であるはずだった。

疑っているのに、確かだと言い切れない。

なのに。


何かが、違う。


ひどく懐かしい何かを、探偵は感じた。

それは自分が、必死に探していたからこそ、気がつけた刹那。

しかし・・・・・・・彼がそんなことを、できないはずなのも、事実。

それとも外れた枷が、なにか意味を持っていたのだろうか?

いいや。

こんなもの・・・・・・彼の全てを手に入れられるはずが、ないじゃないか。


「・・・・・・新しいのを、用意します」

「そうだな。こんな風な壊れ方、逆に怪しまれちゃうね」


目の当たりにした突然の一種超常現象に、しかし月は楽しそうに笑う。

枷等、己には無意味だと。

そういわれたような気がした。

部屋の隅にある内線を取る。流石に壊れたというのは受けた側・・・おそらくはあの老紳士だ・・・にも予想外だったのか、会話はわずかながら長く続く。

それでも数分などかからない。声を荒げることすらできない。

それでも、月には大切な時間だった。



「覚えてたんだ」

「思い出した。これでもいい出来のを持ってきた」

「うん」

「つけてくれるのか?」

「なに、当たり前のことを聞くの?リューク」

ずっと、待っていた。

探しにいけないから。会いにいけないから。

だから、待つしかできない自分にいらいらしながら待っていた。

覚えていない、その中でも確かに。

「ライト」

「うん」

「・・・・・・・第2幕、楽しませてくれ」


勿論だ、と。そういう前に探偵が振り返ったが、立ち上がる振りをして。

再び再会したいとしい死神に、月は誓いの口付けを送った。

それは恋人の口付けではなく、死神とノートの所有者である契約だったかもしれないけれど。

2人には、確かで絶対的な。

人の空想の中にしかいない神ではなく、お互いに誓う永遠。


左の、薬指。

頼りない、かみのゆびわ。

おそらく、探偵はこれを見咎めるだろう。


けれど・・・・・


これは月にとっては、あんな下らない枷よりも、ずっと確かで恋しい「絆」なのだ。







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と、いうわけでして。HIT3500!ゆう様リクエスト
「月を迎えに来るリュー君でした」
すいません。リュー君出番少ない・・・・くすん。
しかもなに、この「魔王(L)にとらわれた姫(月)を迎えに来る勇者(死神)」は。
(くっろい姫さんだなぁ・・・・)
そしてBBSで報告を受けたときの暴走発言が微妙な形になってきました(汗)
死神からライトに送られた紙(というかノート)で作った指輪は個人的に突っ込みどころ満載なんですが・・・・・・・・・頭から離れなかったです。このネタが。
こんなんでよかったでしょうか?楽しんでいただけたでしょうか?
それもともかく、リクエスト、ありがとうございました。
利剣

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