ふと、それに気がついたのは 自惚れでもなんでもなく、「僕」だったから。 そんな確証が、なんだかはっきりあった。 ・・・・・・・かぜのとおりみち SIDE;F 「不二、すまんな」 「ん、いいよ」 なんだかんだで妙に忙しい同居人は、あっさりと自分の優先順位を告げて僕を見捨てた。 謝っている顔は真剣だしちゃんと埋め合わせするから、っていっているのは判るんだけど、なんだかすっごい真剣だからちょっとだけ意地悪したくなる。 勿論、定規のような君の邪魔をするなんてできないから、そうじゃぁ今度オゴリね、と話をつけて、僕は一人で帰路につく。 他の顔見知りを、とも思ったけれども結局止めた。いくら僕でも、一日に2人も振られては立ち直れなさそうだ。 大学に入ってから、随分予定というものが狂うということを実感した。 中・高の忙しかったころの方が、考えたとおりにことが運んでいたような気がする。勿論、自分がそう思うだけで、形になるわけではないのだけれど。 「ストリートでも行って来るかな」 専門とはいっても勉強に対して特に危機感が無いので、おそろしくぽっかrと多く空いた時間を潰すことが難しい。 僕は遠回りになる道をワザとえらんで、ストレッチがてらの徒歩を楽しみながら目的地を目指した。同じような同世代が、同じような理由で集まっているので、相手には困らないだろうと思って。 とはいえついていない時は続くもので、見知ったメンバーはテニス場には誰もいなかった。 見当たるのは誰も若い世代で、しかも全てそれぞれそれなりのメンバーが成立している。なんだか自分が妙に年をとったような気分だ。勿論、気持ちの上ではまだまだ若いつもりなんだけれど。 「どうしようかな」 隅に配置されている壁打ちのスペースで身体をならしながら誰かが来るのを待つか、それとも今日は諦めて大人しく家に戻るか。 折角ここまで来たのだから、戻るのもなんだかつまらない。 結局最初の案を採用して、身体をならすつもりでボールを弾ませた。 暫くそうしていただろうか? ふとなんだかそうしなければという気がして僕は振り返った。 自分よりも、3,4歳若そうな青年が、丁度階段を上ってきたところだった。 「・・・・・・・・・・・」 テニスバックを持っているから、勿論テニスをしにきたのだろう。 だけれど連れはいない。僕と同類だろうかと一度首を傾げたが、彼は相手を物色する様子も無く、真っ直ぐ壁打ちスペースに向かってきた。 僕を見たわけじゃなかったから、本当に一人だけで打つつもりできたのだろう。 (なんだか寂しいなぁ) 自分のことは棚にあげてそんな事を思う。 僕が他のグループにまざらないのは年齢のこともあるし、失礼ながら「愉しい」と思える技術を持っている人間がいないからだ。彼も、そうだということだろうか?興味はあったが、なんだかその青年には声をかけずらい気がした。 気のせいだろうか? 彼には、一人で来たと言う印象がない。確かに一人きりなのに、だ。 だからなんとなく、声をかけるのも躊躇った。 僕は再び壁に向かい、ボールを打った。 暫くして僕の打つ音に半歩遅れるタイミングで少しはなれたところの青年も打ち始めた。 特に意識をしているつもりも無かったが、人間面白いもので、無意識に気持ちが張り合うようにしてその玉打ちの音にも気合が入っていく。 その内、何かに呼ばれたような少しおどろいた雰囲気が背中の方から伝わり、奇妙な二重奏は突然終止符を打った。 釣られた様にして僕も打つことを止めてしまい、何でそんな事をしたんだと自分で首をかしげたところで、壁越しに自分のほうへボールが向かってくるのが分かった。 再び僕の背中越しに壁打ちを再開したらしい青年が、何かでタイミングを外したらしい。 僕は其れを反射的に打ち返した。 勿論、彼のもとへ戻るように。 間髪いれず、再びボールが僕に向かってきた。 壁というワンクッションがあるから、勿論僕の得意技であるカウンターは使えない。 それでも特に会話も導入のきっかけも無いのにどんどん調子がでてきた僕らは、無言のまま壁越しの試合を続けた。 ちらほらとギャラリーの方から感嘆の声が上がる。 球筋を相手の動きから予想できない上に跳ね返すというイレギュラー的なタイミングの外れ方は、確かに専門のゲーマーならともかく、テニス畑の人間には難易度が高いかもしれない。 そんなこの奇妙なゲームを終わらせたのは、やっぱり青年の方だった。 再びなんだか誰かに何かを言われたような少し困った顔をして、それでも無言のまま僕の方へと頭を下げた。 気がつかないうちに逢魔ヶ刻を迎えた夕刻の中、綺麗な金色の糸がさらさらと流れた。 僕もなんだか言葉を発することが出来ず、手をひらひらさせてその場から立ち去ろうとする少年を送った。 愉しかった、とも面白かったよとも僕には勿論いえたはずなのだけれど、なんだか言うのは躊躇って、結局止めた。 闇に沈む道に向かう青年を目で見送っていたのだけれど、僕の目は突然奇妙なものを映したようだった。 勿論、気のせいだろう。 ほんの刹那のことで、僕には幽霊なんか見えないはずなんだから。 ・・・・・なんだか回りはそうは思っていなさそうだけれど。 青年の傍らには闇より尚黒い影が穏やかに寄り添っていて。 それがまるで「当たり前」の光景であるかのように、自然に見えた。 彼には、おそらく。 それが日常なのだろうって、少し思った。 「さ、僕も帰ろうかな」 夜が、迫ってくるから。 僕も、僕の場所に還ろう。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 物好きな死神は 時として思っても見ないことを言い出すから SIDE:R 月のテニスが見たい。 死神が唐突に言ったので、僕は目を丸くした。 林檎が食べたいだのゲームをしようだの、僕の背後を陣取っている死神の申し出は大概自分本位な注文で、だから「見たい」なんていう珍しい注文に、僕は単純に驚いたのだ。 「なんで?」 「月が愉しそうだったから」 楽しそうって。 あのはた迷惑な探偵との試合のことだろうか? 断じて愉しくなかった、というほどではないが、少なくとも僕にとってあの試合は色々な意味で「勝負」であったから、まぁ真剣であったことに変わりはない。 個人的には家でごろごろとリュ―クとダラダラしているのも、好きなんだけれどね。 死神が五月蝿いから、まぁ少し遠いけれど体が訛るのも嫌だし、壁打ち位はしに行ってもいいかな。 幾つも同時に言い訳が頭の中に立って、其れが少し自分だと思い知る。 「いこっか、リュ―ク」 死神の調子に乗った声が、耳にちゃんと届いた。 そういうつもりではなかったのだけれど、なんだか妙な展開になってしまったその原因は、やっぱり死神だった。 僕以外にもいた壁打ちの人は、同じ世代位だろうか? とても綺麗なフォームで、あぁこの人はテニスを続けているということをすぐに悟らせた。 別に自分が中学で止めたからといって、続けていた人間を見下すつもりは決してない。僕にとっては単に、テニスは遊びの域を出なかっただけだ。 けれども別に試合を申し込む気も無くていたのだけれど、たまたま外れた後に打ち直そうとしたときに、人の目を盗んで暇潰しにだろうが死神がボールを壁にぶつけたのだ。 なれない、コントロールを持たないボールは、壁にぶつかって勝手にその人の方に飛び込んでいった。 あ、まず。 そう思ったけれどもちろん後の祭りで、相手は反射的にだろう打ち返してきた。 あぁ、もう。 なんだかそれを打ち返して、また返されてというのを繰り返している内に、なんだか変則試合みたいな展開になってくる。 しかも相手の動きが真正面で見れないから、とにかく気が抜けない。 ・ ・・・・・・・あぁ、もう。 しかし僕のその集中が逆に癪に触ったのか、ゲームのきっかけになった死神が今度は邪魔をしてきた。いつもの一言だ。 「ライト、林檎」 どこまでも我侭な様をだけど僕だけだと思うと優越感だった。 結局現役じゃない僕は既に息があがっていて、確かにちょっと、疲れてきた。 ボールをラケットではなく手で受けて、一度頭を下げた。 なんだか声をかける気にはならなかった。 これ以上、かかわりをもってはいけないような。 そんな気がしたのだ。 それは恐らく、双方の暗黙の了解。 日常から、ほんの少し外れた所にあった、些細な非日常。 キラという存在ではなくて 夜神月がであった、時間だからこそ。 すいませんすいませんすいません。
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