人は同等の代価を払ったとしても 同じものを得られるとは限らない 2:代価 死神の葬儀は慎ましやかなものだった。 とはいえ、参列者も喪主もいない。 検査のためという理由だけでいるこの白い空間で、たった一人の少年が祈るだけだ。 もっとも、葬儀なんていうのは、残されたもののためのものだと彼は良く知っていた。 ましてや、死神の冥福など、あるはずもない。 でも人は祈らずにはいられない。 例えその組む両手が、何百・何千もの血に塗れているとしても。 名を呼ぶことは避けた。 それは彼が、いまだ「キラ」としての機能を持っていたからに他ならない。 そしてキラには「L」という敵が存在し、その敵は少年を監視することを当然と考えている。 ならば睦言のように祈る相手へと名を呼びかけても、それは誰だと聞かれた時に自分以外が彼の存在の名を呼ぶことになる。そんなことは許せることではなかった。 キラという存在と、 少年としての存在が、ひしめき合う。 私怨と、それと相反する「正義」という2つの狭間。 2人の間にあるのは確かな意思とその意志を守り、散った異形。その異形がもたらした、一冊のノートだけだ。 (ノート・・・) そうだ。 キラ、が。徐々にその存在を主張し始める。 嘆くなど、あの死神は楽しまない。 常に行動する「キラ」にこそ、死神は歓喜の声を上げ、時折羽を休める少年の姿には不器用な腕で癒しをくれた。 今の自分を変えてしまえば、それこそあの死神といた時間を否定しかねない。 そんなことは許せない。 何より、自分自身が。 「大丈夫。僕は、負けないよ」 例え盗聴器がついていたとしても聞き取れないほどのかすかな声は、背後に黒い影があった頃と同じ、穏やかでそして、どこまでも闇に響く誓い。 扉が開いた。 再び検温の時間かと目が時計を探したが、少年が時間を確認するその前に、病院には似合わない男が顔を出した。 精神病棟からそのまま顔を出したと、勘違いされないほうが意外だと単純に思う。 「やぁ、名探偵」 少年は一言、そういって迎える言葉に代えた。 「お元気そうで、なによりです。夜神くん」 心にもないことを。 頭の片隅がそんなことを思う。 卑屈になったわけではなかった。 ただ、そうと思っただけのことだ。 そしてその思いを知っているのかどうか。 探偵は不意に一冊のノートを差し出した。 真っ黒く、そして一見冗談のような単語の書かれた、其れ。 ぞくんと背中に何かが走る。 見られた・・・? それを、よりによってこの男に。 「現場に落ちていたそうです」 「え?」 探偵はノートを差し出したそのまま、一言告げた。 思わず声を上げてしまってから、気がつく。 そう。自分のノートは、決して見つかることの無い場所に隠してある。 例え名探偵とて、それに気がつくことはないと自信を持っていえる。 と、なれば、この、ノートは。 「失礼と思いながら、外面に名前が書かれていないので中身を確認させていただきました。 ・・・・・・・・・・人の名前が連ねられていたのですが、国も時代もなんだかばらばらですし、その上、書かれている中で最後のページには心臓発作で事故を起こし、死亡した人間の名前が書かれていました。 夜神君の、巻き込まれたその事故です」 「・・・・・・・・・・・・」 「しかし、夜神君の筆跡ではありません。心当たりはありますか?」 ある、といえば探偵はその名に恥じぬよう、今度こそ月を「キラ」として捕らえるだろう。 しかし無いといったところで、支障が無いことを月は既に悟っていた。 ノートが触れる人間に与える視覚は、そのノートの本来の持ち主である死神のもの。 そしてその「死神」は、既にかつて白い死神が告げたように「塵とも錆ともつかないもの」となって人の世の風に攫われた。 差し出される黒いノートは、危険な爆弾だが「使われる」ことも殆どありえない以上、月にとって「形見」以上のものとはなりえない。 その「形見」に、執着がないといえば其れは偽りになるのだけれど。 「知らないな。 ・・・・・・・・・それにしても趣味の悪いノートだね。 DEATH NOTE?死のノート、か。 もしかしてそのノートに書いてある人が全員死んでいるとか?」 さり気無く、そのノートを覗き込んで、眉を顰めてみせる。 その心の内側に、偽りなど無いと主張するように。 嘘ではない。リュ―クと呼んでいた死神本人のノートなど、これまで見る機会はなかった。 それに月が拾ったとき死神は「人間界で最もポピュラーな英語で解説文をかいた」と己ず主張していた。 なれば本当に、其処にあるのは「死者の名が連ねられただけのノート」に他ならない。 「えぇ。勿論、調べきれない人間の数が書かれていますから絶対とはいえませんが。わかる範囲では全員、心臓発作で死亡していました」 「へぇ」 当然だ。 死神が、特に「トリック」をつけて殺すような真似をする筈が無い。 それにノートに、逆に詳しく書かれているほうがずっと怪しまれるだろう。 だからここでこぼさなければいけない模範解答は、月にはひとつしか用意されていない。 「まるで、キラの物である様だね」 「えぇ」 探偵がひとつ首を縦に振った。 我が意を得たり、というつもりか、それとも自分と同じ推測に満足しただけか。 その真意は月には捉えられない。 「キラの物ではないことは確かです。 しかし、もしこのノートに、その名を刻むことでその者を死に追いやる効力があるというのならばキラも同じのものを持っている可能性があります」 「・・・・・・・・・・・」 「月君は、その可能性をどう思いますか?」 面白い仮説だね。 試してみたら? そう告げた声に、何故か震えは無かった。 第2話です。
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