正しいことを決めるのは、人だ。
神じゃない。
CITY MAZE(10)
「人は神にはなれない。
でも神も、人にはなれない」
黄昏色の死神の呟きは、大気の走る音と白い質量にあっさりと飲み込まれた。
だからいつも傍らにあって、意味がないとわかっていても昔のクセでその冷気からその細身の姿をさり気無く守っていた黒い影はその呟きを捕らえることはなかった。
空を掴む白い指先は人の頃にならば紅くくすんだろうに、今持つその身は空から零れる雪に融けそうなほど白い。
視界以外、決して交わることはないのに。
世界が静かに白に浸食されていく。
「僕は未だ雪には勝てないね」
「?」
こぼした言葉に、昔見た白い吐息は絡まなかった。
少しづつ、少しづつ
人であった頃を懐かしむ自分を知る。
今を憎むわけではない。
人であったときにはこの寒さも高さも関係の無い、かの黒き影と同じ体温を求めて渇望していたのだから。
手に入れるに払うのは、代償で、そしてその代償は元々持っていたものであったということ。
その事実を、今更否定できるだろうか?
人と神は交わらない。
神を選んだ人が、戻ることが赦される筈がない。
「・・・・・・・・・・・・戻りたいわけじゃない」
あそこに、もう自分の場所はない。
自分の居場所は、この黒い腕、黒い神の隣りだ。
大地に這い蹲って、浅はかなバベルの塔を見下ろす探偵など、嘲笑い、同じだけの重さでいとおしめばいい。
人をいとおしい思える心は、キラであった頃から育った感情だ。
それは王者としての、神としての余裕と慈愛。
「・・・・・・・・・・リュ―ク」
「ん?」
「ありがとう」
「あ?」
「有難う。僕をここに迎えてくれて」
「お前がいないと俺が俺としていられない。
・・・・・・・ここにつれてきたのは、俺の我侭だ」
「謙虚だね、リュ―ク。でも、ありがとうなんだよ。
僕には、それこそが一番の望みだったんだから」
「そうか」
「そうだよ」
人の世に、人と力を使い伝説を生み出した神は唯一手にしている安らぎに、穏やかに微笑んだ。
神としてではなく、恐らく、「ライト」という存在として。
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