いとのからまり その2人に再会したのは全くの偶然だった。 半ば強制された形ではあったが、ミサとのデートという名目で町に出た。 耳障りな鎖の音は、今はしない。 流石にこんな所であんなものをつけさせられているのは、不本意な憶測を受けかねない。・・・・最もいつもその鎖の先にいる探偵は、平然とした顔で、そのデートという単語からは恐ろしく疎遠そうなオプションとしてくっついているのだが。 馬鹿なことだ。 何より僕がキラトして今妙な動きをすれば、疑われるのは必須。どだい僕がキラというのなら、少なくともそんな単純にばれそうな真似はしない。 「ね、ライト、次はあのお店―!」 「はいは・・・?」 竜崎の存在なぞ見事になかったことにしていたモデルの少女は、しかし今時分の捕らえた視界の中に何があったのか、その表情を凍らせた。 なんで、いるの? 音にならないその呟きは、何故か僕には聞こえた。 恐らくその意味合いは異なっていたとしても、同じことを考えたからだろう。 「火村先生、有栖川先生」 探偵が合えて口にしなかったその名を呼んだ。 言えば現実になるだろうというのに。 京都にある私立英都大学社会学部、社会犯罪学科助教授・火村英生。並び推理小説作家有栖川有栖。冗談のような組み合わせの、冗談としか思えない男2人のコンビ・・・もといカップルは、胡乱な探偵の声に自らの認識を括弧たるものとしたのか、苦く笑ってこちらを見た。 「よぅ、名探偵。何出歯亀やってんだ」 「でばがめじゃないです。デートです」 「お前のその恰好も面もデートしてるっつー人間のもんじゃねぇよ、常識不在。 どう見たって青年と彼女の邪魔じゃねーか」 捜査陣すら言いあぐねいていたごく事実を言い切った火村氏は、改めて僕ら3人を見回した。 ふ、と。唐突にいつもの強気な表情が曇る。 ・・・・・・・? 眉を顰め、その目の先を観ると、沈黙しているミサがいた。 失礼ながら火村氏の好みとは言いがたい娘だ。どういうことだろうと内心首を傾げ、そして気がつく。 ミサの沈黙は、会う気がなかった人間とであった時のばつの悪さが表情に出ているということ。 「こちらに、来ていたんだな」 「先生こそ。FWしすぎて、大学クビにでもなりましたか?」 自分のシャツの裾が、クシャリと歪んだ。 皮肉気な彼女の放つ言葉が、完全に無理をしたものであることに気付く。 知り合いか? 頭の相変わらず冷静な部分は当然の疑問を抱いたが、口にすることは躊躇われた。 あの自己中を地で行っているミサが、言葉を言いよどんでいるのだ。 しかし、デリカシーも常識もからきし通じないのも約1名。 「お知り合いなんですか?」 「・・・・・・お約束なやつめ」 「昔のFWでな」 言葉すくなな火村氏の答えは、暗にそれ以上触れるなといっているようだった。しかしそれだけのヒントがありながら、聞くほど野暮でも阿呆でもないつもりだ。 ミサの両親が殺された、強盗殺人。 証拠不十分で犯人は解放され・・・その人間は「キラ」に殺された。 彼女がキラに浸水する、かっこたる理由。 「あの時は、何も出来なかった。 捕らえることも、罪を償わせることも」 助教授は誠実な声で彼女に告げた。 己の力不足を真摯に受け止めている故の目で。 しかしミサはわらった。 恋人だと主張する僕の腕を、先程よりかすかに強く抱きしめながら。 「先生は一時とはいえ犯人を暴いてくれた。 裁きはキラが下したわ。それで充分」 「死が、断罪とは限らない」 彼女の言葉を切って、研究者が告げた。 その言葉には遺憾だと自分の意志を告げるあたりは、らしいとうか。 しかし同じだけ、別のベクトルの強さも、彼女にはあったのだ。 「なにがわかるの?」 彼女の言葉。 殺された側の主張。 「裁けなかった人に、何がわかるの?!」 「・・・・・・・・・」 判るわけがない。 決め詰めた少女の声に、学者の表情はかすかに歪んだ。 額面どおりに受け止めるには、あまりにも子どもじみた主張。 なのに学者は、酷く痛そうな顔をしていた。 裁けなかった、人間。 研究者としてのプライドか、それとも。 「力及ばず、すまなかった」 もう一度下げられた白髪交じりの頭は、みすみすキラに犯人を手渡したかったてことの後悔の念がありありと滲む。 キラにはなりえない、死神。 ふと奇妙な単語が頭の片隅に過ぎった。 ならば、死神とは。下らないことが堂堂巡りを繰り返す。 「・・・・・・・」 今まで沈黙していた学者の側に立っていた作家が、ここまで、とこの場を仕切るように学者の裾を引いた。 ミサとは違い、あくまでかすかに。 それで気がつくのだから、彼がどれだけ作家に意識を向けているのかがわかるというものだ。 「・・・・・・・・・・りす・・」 「君は君の仕事をした。 ・・・・・・・・・キラも、恐らく自分の仕事をしただけや。 それだけのことなんやから・・・・」 な? 過ぎてしまったことはそれ以上どうしようもない。 過去を否定しているわけではないが、しがみ付くことも良しとはしない。 (この人には、ぴったりの人かもしれないな) では、この少女はどうだろう? 自分に本当にあっているのだろうか? 傲慢と判りながら、頭の片隅がそんな事を思う。 自分が本当に求めたのは、どんな相手だったろうか? 彼女との関係は明らかに押し切られた類の方向だ。 だから思い入れがそうそうないのは事実だったが、それでも。 この奇妙な疎外感はなんなのだろうか? 疎外感とは違うか。 この2人に以前あったとき、自分はもっと余裕があったというか、もっと。 冷静に見ることが出来た筈なのに。 (何があったんだろう?僕に) あったことは恐ろしくたくさんだ。 拘束に休学に捜査に。 だけど、そんなことじゃない筈。 答えが出ない。 学者達とは、その後作家が引っ張っていく形で別れた。予定があるのだと言っていた気がする。 でも囚われた思考の中で、その様は酷く遠いことのような気がした。 探偵が探るように、こちらを見ていたことも、ミサの腕の力が強さを増していたことすら、どうでもいいことだった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ Wデートじゃないです。
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