取り戻したいと望むものは
朝露のように弱く
台風のように無責任だ




 3 約束





「他人のノートに落書きをするのは私の主義に反します。
しかしキラと思われる人間の下から、同じノートが出てきたとしたら、これを試しても・・・いいのかもしれませんね」
「説得力に欠けるな。
冗談のつもりでしかないのだとしたら、ただの偶然性だ。
単に資料という可能性だって否定できない」
「わかりませんよ?
キラがもし名を書くことでその人間を殺すノートをもっているのだとしたら・・・・
間違って報道されたその名をも記入されている可能性があります。
比較する手段としては、充分かと思いますが」
「いや」
所詮、大半の人間の情報源が「報道機関」である以上、それだけでは信用できない。
勿論、どこの報道局の報道を見ているかどうか、調べる手段によっては判るかもしれないが、酷く時間がかかることも容易に想像できる。
「冒険には違いないよ、消せる筆記用具で書いたとしたら、またややこしくなるだろうしね。それにLともあろうものがそんな不確かな方法で犯人逮捕なんて、拙いだろう?」
「・・・・・・・」
勿論、反論はいくらでもあるだろう。
PCとの共同処理、その相違。
書いた順番や、可能性としては死因まで。
全てを知っていて、知らない顔をすることに躊躇いはない。
寧ろ・・・・・・誰かを楽しませるつもりでの、戯言。
聞くものなど、もういないのに。
あの声は聞こえないのに。
「そのノート、君が管理するのかい?」
「そうですね。警察は夜神君のものと認識して、渡してくれたのですが、あなたのものではなかったようですから」
「ふぅん」
恐らく禄に中身も確認しなかったのだろう。
もっとも、疑問に思うことも本来はないはずの代物だ。
ただの、黒く悪趣味なノート。
文字通り命がけで追っていた物だと、気づく筈がない。
「私が預かって、構わないんですね?」
もう一度、探偵が聞いてきた。
しつこい、では無く、あぁと気の無い顔をして頷く。
形見なんかいらない。
あの死神の名残りなら、自分の隅々に残っている。


現実問題、たいした怪我でもダメージでもなかったので、帰ることが出来たのは思いのほか早かった。
家の夕餉ではささやかながら、月の好きなメニューが並んでいた。
ふと気がついて甘いにおいを漂わせているオーブンの起動に目を向けると、母親がアップルパイをデザートに焼いているの、と少し誇らしげに笑った。
林檎を、やけに消費するようになって数年になる。
家族達の意識の中に「林檎がすき」という認識も、あながち責められない。
これでいきなりぱたりと食べなくなったら、それはそれで怪しまれるだろう。
事故にあって(それも直撃ではなく、あくまでも爆風に巻き込まれただけなのだ)味覚が変わったなど、聞いたことがない。
だから有難うと笑って、楽しみだなと告げる。
あいつは生が一番好きだったのだけれど。
こちらにきて始めて食べた林檎の加工品も、悪くないといっていた。
そういえば今度林檎飴を買ってやるって約束したっけ。
些細なその約束を、叶える事は出来なかったけれど。

あぁ、そういえば。

「約束なんて、あれだけだ」
「ん?お兄ちゃん、何か言った?」
「・・・・・・いや?」

いつもいつも、人間と死神の立場で約束なんて言う「同じ立場」の言葉をかわしたことはなかった。
それがルールのような気がしていて、それが日常で。
でも、あの時は。
偶々少ししなびた林檎しかなくて。
こういうのでも林檎飴なら結構おいしく食べられるんだよね、って言ったら。
食べてみたいって言い出して。
じゃぁ今度ね、って。
何気ない会話であったのかもしれない。
あの時は喜んでいたけれど、すぐに忘れていたかもしれない。
それでも。

(僕にとっては、結構大切だったなんて、思っても見なかっただろうね)

ずっとに、一緒でいられないかもしれない関係。
厭きてしまえば、平気で一方的に切り捨てられる立場。
それに怯えていた僕を、君は知らない。
僕すら恐らく、自覚の無かったことだから。

だけれど。

こんな結末は知らなかったんだ。
考えても見なかったんだ。

だって終わるとしたら。
僕がきみから切り離されていると信じて疑っていなかったんだ。



第三話です。
前半と後半では後半の方がお気に入り。
いなくなっちゃうってことは。
思い出があった、ということ。
今度は自分の部屋で
もっと「2人」であった頃を思い出していきます。

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