それが果てならば 悪くないと。 5:深淵 ライトは目を覚ました。 随分長いこと、眠っていたと言うよりも、単に目を閉じていたという時間が長かった気がするが。 今更視界を得たところで、所詮荒地が広がっているだけと判っていたが、何かに誘われるような、自らの意志の酷く弱い覚醒だった。 「長かったね、ライト」 それを待っていたように、少女のモノの声がライトの耳を撫でた。 何時の間にか荒野を背に、紅い死神が微笑し、彼の存在を見下ろしている。 「人であった頃のキラが書いたその名の分奪った寿命が、そのまま死神となった時の寿命となる。 それを知った時のあなたの顔、未だ覚えてる」 ミサ、と。 音の無い呟きがライトの乾いた口元から零れた。 自身固体を示すその名に、乙女はかすかにその口元を歪めて笑みを作ったようだった。 永遠に愛することを誓った相手に、その名を呼ばれたゆえか、それとも・・・ 「ライトの願いは全て叶えてあげたかった。 けれどライトはリュ―クに恋をしているから。ずっと、ずぅっと。 だからノートに人の名を書かないで、ただそのカウントが終わるのを待つしかなかった」 ごめんね、と。 かつて人であった頃より、恐らく誰よりもライトを愛し続けた時間を持つ意識の持ち主が謝罪する。 彼女は何一つ、悪くないのに。 「もうすぐ、ライトは死神としても終わる」 待ち遠しかったでしょう? 長かったでしょう? 柔らかいその口調は、謳うかのように。 「その向こうがどうなるか、私は知らない。 リュ―クがいるかどうかもわからない。でも。 ばいばい、ライト。貴方はやっと望みを果たせるから、私は貴方を祝福する」 赤い唇が、ライトのかつての瑞々しさの無い唇に触れた。 いつか交わした・・・というよりも「契約」をした・・・口付けとは比較にもならない程、何の他意もない行為。 昏き祝福。 「ミサ」 ライトが彼女の名を呼んだ。再び。 異形の容貌と化した彼女の笑みは人であった頃のものとは大きく異なっていたが、それでも、同じように異貌と化したライトには見慣れた無邪気さを持っていた。 「なぁに?ライト」 あまやかな少女の声。 かつてから、絶対の信頼と愛情をもって傾斜している、その声。 「君はどうする?」 だが彼女は、かつてから決めていたようにキッパリとその問いに答えた。 「私は死神としての存在を全うする。 私も絶対、人に殺されることはないだろうから。 私はキラという事象として、これからも人を狩り続ける。 キラという存在の信念を引き継ぐの。 ライトがリュ―クを思い続けていたのと同じように。 私はライトを憶え続けている」 彼女の目に惑いはない。 眠ることを忘れ、目蓋を失った彼女は悠然と表情を歪める。 「それが私の愛し方よ、ライト」 「そうか」 答えが満足できるかどうか。 ライトは久しぶりに自分に対して問うことをしてみたが、まとまる事はなかった。 どこからとも無く走り抜けた風が人と異形の狭間で変わりきれず終わりを迎えたその姿を、有無言わさずさらった。 「キラ」という犯罪者を喰らう現象が。 既に、人の世で神として日常に存在し続けているその時代の物語。 |
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