楽しい事は何? 辛い事は何? いとしいのは、誰? |||||WORD:名声・名誉 「迷い子の報酬」||||| 世界は常に動いている。 「キラ」という異端を抱いて尚。 「キラができる事なんて高が知れている」 「死神にできることが、限られているように」 美しい狂気が呟いた。 睦言のような甘さと、断罪のような鋭さを併せ持った声で。 「正しい事は何?」 「罪を犯したのは誰?」 彷徨う腕の先には、狂気を見つめるうつろな闇の目。 「答えを出せる存在はずうっとずぅっと居眠りをしている」 「自分が殺されていることすら気がつかない程、深く、深く」 闇は狂気の呟きを喰らう。 更なる狂喜の高潮と哄笑をもって。 「間違いを誰が決める?」 「断罪を口にする存在に、その価値はあるか?」 「ここにいるのは傍観者だけだ」 「キラすら?」 「そう名づけられた、事象としての神すら」 狂気は闇に口付けようとした。 闇の零した言葉を、己のうちに取り込もうとするかのように。 しかし闇は赤い果実を差し出し、闇と狂気の狭間を隔てた。 冷たく甘い香りが身体を振るわせる。 「なぜ」 隔てられ、不快を示すと闇は応えた。 「熟す日まで」 答えが不満で、尚問いを重ねる。幼子が玩具をせびるように。 「それはいつ?」 「お前が決める」 なら、今が良いと。 そう口にしようとした直後に目が、さめた。 「夜神君?」 探偵の声に覚醒がつながる。 しゃり、と何かをかじる音に焦点を合わせると、林檎が探偵の口に削られて収められていく様が目に映った。 「・・・・芯まで、食べる?」 月は呟いていた。恐らく無意識に。 「無理ですね」 探偵は応えた。 寝ぼけている人間の言葉に、冗談を感じたのだろうか?その口調はいつもよりも感情の色をもっていた。 「硬いし、味は無いし、消化に悪いです」 「なら残せばいい」 月は応えた。 芯まで食べない存在に、価値を見出せずにいた。 「夜神君も食べますか?」 差し出されたまるのままの林檎。 甘酸っぱい芳香が、脳髄を焼ききりそうだとありえない空想を抱く。 「いらない。怒られるから」 「誰に?」 答えに探偵が問いを重ねる。 曖昧な言葉の端々を、あの狂気に繋げようという意識を隠そうともせずに。 「林檎が、食べたくても食べられない誰かに」 月は応える。 偽りなく。 確信をもって。 「だから、いらない」 探偵の探るような目に興味は無い。 そんな観察に意味は無い。 月が欲しいのは、「面白」と告げられる、無邪気な名声だけだから。 ・・・・・・・・
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