死神は、全てを分かっていて目の前の少年へと口づけてみた。 かつて味わった感触は、一つとして返ってこなかった。 艶やかな甘さも、弾力も。 挑戦的なその瞳も。 「・・・・・・ライト」 呟いた。 かつてのような、あの強い笑みは返ってこなかった。 絶望という言葉を、死神は始めて知った。 |||||WORD:最も美しい人へ「限りある絶望」||||||| 死神が落としたノートを拾った人間は聡明な生き物だった。 全てを冷静に見聞きし、そして分析し、自らの糧とする。 まっすぐに立ち、強い意志をもって己の正義を遂行せんと前を向き。 「・・・・・」 それは、自らの信念を記憶の奥底に封じてすら。 「月」 その信念の象徴的存在が傍らで呟くのを、彼は知らない。 美しく、誇り高い存在であるが故に欠いた自らの特別を視界に映さない。 闇の中、思い出せないかつてを無意識に求めるその声を死神は絶望の眼差しで見下ろす。 今、ここに。 あの黒いノートを落とすことが出来たらと。 自らの魂の欠片であり、彼という存在を本当に完全とする力の象徴をそこにと。 望みながら他ならぬ彼の意志ゆえに叶えられないその行為。 まだ。 未だ時は満ちない。 用意されたキーワードはまだ彼の中に存在しない。 世界は相互性を持たず、美しい存在は映し世に埋もれ始めてもそこから飛び立つときでは無いと知っていて、沈黙している。 「月」 いつか。 本当にかなうか分からない「いつか」を抱きながら、彼は真実を追いつづけている。 「もうすぐだ」 それでも。 死神は信じている。 「もうすぐ、月は俺の名を呼ぶ」 絶対的なキーワード。 それは狂喜にも似た瞬間が放たれるその刹那。 「そのときこそ、お前を祝福しよう」 美しい人。 世界ではなく。 全てにおいて美しいお前という存在に。 「俺の、存在全てを持って」 昏き瞳には決して止まることのないカウントダウン。 わかっている。しっている。それでも。 「月・・・・・・」 この幻の口付けが現になるその日も確かに。 その瞳に黒い自らを映す日が確かに。 「さぁ、呼べ。そして」 林檎を。 お前の手から手渡しておくれ。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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