もし帰る場所があるのなら 僕は君の隣を望む Serenade 口づけられたと気がつかなかったのは、その熱が酷く自分に馴染むの物だったからだ. 懐かしいというよりも、重なっていないそのことに驚かされたような. 離れて始めて、自分が離別を受けたような心ともない気持ちにさせられ、僕は覚醒した。 「・・・・・・ぁ・・・」 その目線が重なった. 自分でも驚くほど、酷く非難めいていて同じだけ熱を帯びた声が大気に溶ける。 「おはよう」 日の時間ではなく自らと同じ名を冠する月の時間なのに、その人はそういった。 そしてそれだけでその人の発言が世間の常識なんて薄っぺらいものよりも正しいもののような気がして、僕は素直に「おはよう」と応えた。 綺麗なその人はその言葉に満足そうにうなづいて、つと僕の腕をひいた. 鎖の音は気にならなかった。 その気になればいつでも断ち切ることができる人がそこにいたから. 「月が綺麗だよ」 「え・・・」 「みようよ、月」 誘われるままに一見ガラス張りとも思えるほど広い窓に向かう。 外に出る事は許されていない。 それでもゆれることのない水面の向こうに笑う月は確かに存在していた。 「十六夜だね」 傍らの人が呟いた. 欠け始めた真円は様々な伝承において不吉を示すのだという。 でもこの人を照らすその輝きは甘く蕩け、いつまでも見つめていたいとそう望む。 「君と同じだ」 「え?」 「今の君は欠けることしか出来ない」 「・・・・・・・・」 「徐々に、確実に、地球の陰に侵食される」 地球、という自分の今住んでいる場所が、とたん忌々しく感じた. もしかしたらあの探偵を思い出したのかもしれないが、今あの存在を自分たちの間に介入させる気にはならなかった. 自分は満たされていたいのに。 そう、この人と同じように。 「かわいそうだね」 「・・・・・・」 全く心にもない口調でその人は僕に囁きかけ、頬に触れた. それだけで安堵する、その体温がいとおしい. もっと、と。 そう望む自分がそこにはいて、でもそう望むことすらわずらわしいといわんばかりに、一つ口付けを落としてその体温はつ、と離れていく。 「あれも浅はかな生き物だね。 鳥の生態を知るのに、空を飛ばせないで分かるはずがないのに。 月で月見をするようなものだ。みたいものなど、決して見えてこない」 あれとは探偵のことだろうか. 平然とあの人間を貶す様すら詠うように甘く囁くこの人が美しいとのぼせ上がった頭が思う. 「つきは」 「ん?」 「いつか、満ちるから」 欠ける月を僕といったその人に、僕は言った. 特に意味はなかったかもしれない. ただこの人には、それだけ伝えておきたかったことを、口にしただけだった。 でもその人は軽やかに声をあげて笑った. 予想だにしていなかったという半面で、ほしかった応えだと.そう言っているように聞こえた. 「そうだね。いつか月は満ちる」 その人は言った。 「僕はそれを知っているから君にちょっかいを出せる。 リュークもそれを待っているからここにいる」 確信に満ちた厳かな宣言のような声と共に、彼の姿は闇と月明かりに抱かれるようにとろりと融けた。 「夜神くん?」 探偵の声が聞こえて、僕はそちらに眼を向けた。 鎖には余裕がある。 いつから、とも一瞬不安を抱くが、あの人がばれるような失態をする筈がないとも確信していた。 「どうしたんだい?」 「いえ。夜神君こそ」 「あぁ。月が綺麗だったから、ついね」 僕は応えた。 ちゃりりと鎖の音がして、探偵が近づいてくるのが分かる。 「そういえば」 「?」 「キラというのは、新月のようですね」 「そうかい?」 「えぇ。そこにあって、見つけることが出来ない。 いると確かに分かっているのに、自信を持ってそこだと決め付けることが出来ない」 何か含みのある言い方だったが、あえて言葉を重ねることを僕は止めた。 キラは満月だよ。 核心もって自分の考えを口にしたら、きっとあの人に怒られてしまう。 |
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