万引きを見た。 偶々寄った文房具屋で、偶々見かけた。 とても自主的には見えない、酷くおどおどとした行動と顔をした少年。 ぽん、と。 気がついた時には肩を叩いていた。 その少年はクシャリと表情を崩してごめんなさい、と言った。 Allegretto 例えば床にゴミが落ちれば拾う。 汚いのは嫌いから。 例えば売っているものを勝手に持って帰らない。 そんなの自分が惨めになるだけだから。 例えば不用意に人を傷つけない。 あとあと引きずるとめんどくさいから。 例えば容易に己が「キラ」とはいわない。 それでは「愉しい」ことが続けられないから。 ルールというのは結局。 何がかっこ悪いかを判断することだと、そう思うのだ。 未遂だったんだし、僕はこの店の人間じゃないし。 そう告げると少年は一瞬言われた言葉を理解できずにきょとんと目を丸くしたあと、やはり涙目でもうニ度と、絶対しませんと宣言をした。 少年は憑き物でも落ちたような顔で頭を下げ、足軽に帰路についたようだった。 その背中を目で追っていると、少年には見れなかった存在がポツリと呟いた。 「必要なかったのか?」 「え?」 「今の子供、金を払わないで持っていこうとしたんだろう?」 「そうらしいね。自分の意思とはとても思えなかったけれど」 「でも、持っていかなかっただろう?構わなかったのか?」 黒い死神はごく純粋な疑問で持ってそうと首をかしげたようだった。 人間は少し苦笑いをこぼし、妙に常識的なその言葉を困ったようにいいあぐねる。 「変な話だけど」 「なんだ?」 「世界が皆リュ―クみたいな人間だったら、キラは要らなかっただろうね」 「俺は死神だぞ?」 「ただの、僕の感想だよ」 当たり前のこと。 常識といえること。 必要なものしか求めないというのなら、僕という人間もまた、君にとって「必要」なのだろうか? 人間の心理は奇妙な感情を抱く。 勿論、形にはならないのだけれども。 「あのこども、どうして盗もうとしたんだろうな?」 「死神でも、盗むのが悪いことだって、わかるんだね」 「わかるんじゃない。恥だと、そう思うだけだ」 死神の言葉に、人間は笑った。 その正しい感情が、死神だなんて思わせないんだよ、と多分、褒め言葉を口にする。 そう思う人間ばかりだったら。 追い詰められたって、強盗をしようなどという悪質で哀れで、結果キラに死の接吻を受ける生き物もいなくなるだろうに。 「理由なんてわからないよ。 けれど・・・・・・・・・僕の目の前で止めた以上は、キラに出番はないんだよ」 「そうだな」 人と死神は連れ立って、こちらは目的の物を購入して帰路につく。 その少年があの後別の店で「成功」していたとしても、目に届かない時でされてしまっては、補導程度の少年では「キラ」が動くことはない。 彼が選ぶものが結局なんなのか。 それは解らないけど。 「悪くない気分、てこういうのを言うんだろうな」 「ふふ、死神がそんな事をいうなんてね」 「いいことも悪いことも、自分の考える。 死神界には法律がないから。自分がかっこ悪いことは、やらない。それだけだ」 「そう」 それが凄いことだなんていうのは、死神には解らない。 特に今の時代の人間達を見れば、倫理やルールを振りかざさないと理解できない。 いや、振りかざしてすら、理解できない存在が多すぎて。 「だから、キラがいる」 ぽつりと呟いたその声は、すぐ傍の死神にすら届く事はなかった。 働き蜂や働きアリの何割かが必ず働かないままでいるように。 かならず、犯罪者はなくならないだろう。 それでも。 キラは信じているから。 だから、少しでも急いで。 「仕事」を果たすだけだ。
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