闇宵の口笛は 異形を招く力を持つのだそうだ。 Waltzes 口笛が聞こえる。 静かに、緩やかに。 探偵は誘われるように覚醒した。 寝起き特有のぼやけた視界の向こう、ぽかりと空いた闇の狭間、月明かりの下。 天子が佇んでいるように見え、驚く。 徐々に取り戻していった本来の視界は、それを錯覚と示し、探偵にとって最も近くて遠い相手が其処に佇んでいることを知るのだけれど。 「夜神君?」 問いを含んだその声はやけにかすれていた。 空調は完璧だし、風を保有するものなど、この「城」には誰一人としていない筈なのに。 「どうしたんだい?竜崎」 「いえ、口笛が・・・」 探偵は自らの口にする言葉がやけに不明瞭でありながらも好奇心に満ちている事実を偽ることが出来なかった。 渇くのどを無理矢理鳴らし、再び言葉を重ねる。 「口笛が、気になって・・・・」 口にした後で、やっと自分の覚醒の意味を理解する。 彼の緩やかな口元が静かに歌を鳴らしていたのだ。 「口笛・・・あぁ。ごめん。不快だった?」 「あ、いえ。その・・・・」 夜の口笛は。 あまりよい伝承が無いので。 続けようとした言葉に、探偵は自ら驚いた。 伝承などという曖昧で不定期な言葉。 それが酷く自分達とは疎遠のような気がしたのだ。 「どうしたの?」 上辺ばかりのコンビが聞いてくる。 口元の笑みは何の意図を抱いてのことか・・・・ 「いえ」 「なんでも、ないです」 「そう。ごめん、気に障ったら、もう止めるよ?」 「大丈夫です・・・・・・続けてくれませんか?いい、子守唄です」 「そう」 子守唄だなんて、少し子供みたいだけどね。 彼はしどけなく口元を崩して笑う。 形の無いやり取り。 冴えた眠りの欲求のなか、探偵はついに口に出来なかった言葉を心の中に繰り返す。 何を喚んでいるの? 誰を迎えようとしているの? 私と貴方の城に、貴方は何を・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ おそらく白月時代。
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