世界に口付けて
醜くて、愚かで愛しいこの場所は
ねぇ、貴方の婚約者だから












SHOW WHITE  
      FILE:00 遺産














「・・・・・・・・息子が、迷惑をかけた」
男の土下座に、まだ少女の印象が残る娘が小さく首をかしげた。
まるで己に告げられた言葉を理解しがたいといわんばかりに。
「どうしてそんなことを聞かれるんです?お義父様」
決して偽っていない少女の言葉に、憔悴しきった男の顔が驚きに彩られた。
まるで聖母のような微笑を浮かべたまま、彼女は告げる。

「これ以上、私が幸せでない筈が無いじゃないですか。
私は、約束したんです。
月と。それから・・・・・・・・・今はもういない親友と。
幸せになるって。
そのための手段を貰った私が、どうして謝られなければならないんですか?」

心の底から、そんな謝罪はお門違いだと彼女は主張する。
彼女の想い人である男の自慢の長男が失踪して、長く立つというのに。

「君、は・・・・・」
「私は幸せなんです。本当に」

キッパリと告げた彼女が不意に顔を上げた。
小さな呟きのあと、男に謝罪し、隣りの部屋へと駆け込む。

そこでようやっと、男は男の忘れ形見の存在を思い出す。

自慢の息子だった。
絶対的な天才だった。
そして。
正義感の強い、正しいことを選べる男だった。

しかし彼は生まれたときからの家族の前から、自らが選んだ妻の前から、生まれたばかりの子供の前から姿を消した。
捜索願はすぐに出したが、彼が自分の意思で姿を消したとなれば、警察レベルであの息子を見つけることは出来ないだろうと男は知っていた。

そういう意味でも、自分の息子は天才なのだ。
痕跡一つ、繋がり一つ見つけることは出来ないだろうという確信。
彼女にも?

「申し訳ありません。子供が・・・」
「君は、本当に知らないのか?」
「え?」
腕の中で少し力を入れてしまえば壊れてしまいそうな小さな存在をあやしながら戻ってきた彼女に、男は思わず問いかける。
「息子の・・・・月の居所を」
「ごめんなさい。お義父さま。私は月を信じている。愛してる。
だから月のすることは何でも否定しない。
姿がなくても。それが月が選んだことなら」
男はそこまで聞いて、初めて自分の息子の選んだ女性の真実を知った気がした。
自分が無い、というならまだマシだ。
明らかに妄信的な愛情が、彼女の全てを支配している。

「・・・・・・すまなかったね。疑って」
「いいえ。当然のことですわ」
彼女は笑う。
本当に。
幸せそうに。

「・・・・・そういえば。
その子の名前を、まだ聞いていなかったな」

変な話だ。
しかしその子供が生まれる前に、息子は失踪していたので、こんな風に問いかける機会は本当に今まで無かったのだ。

彼女は腕の中の幼子を本当にいとおしそうに、上手に抱きしめながら、ゆったりと微笑んだ。

「李夏、ですわ。お義父さま。夜神 リカ」

月と、決めていたんですよ。
彼女の言葉に、男はこれ以上の言葉を重ねる機会を失った。
金銭的な援助もまた彼は彼女に申し入れていた。
しかし、芸能界に籍を置いている彼女の住むマンションは母子だけの割には広い。
それに生活もゆったりとしている現実を目の当たりにすれば、逆に無理強いすることは出来ずにいた。
すべてにおいて。
まるで。

彼女は幸せであるということを主張している素材のように。






 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 新連載です。
 とーとつにもうどうしようもありません。
 ごめんなさい。すげぇたのしい(白状
 月が失踪しています。
 ミサが母親です。
 んでリカって名前はそれなりに意味がありますので
 センスねぇな、とは想わないでください(土下座
 とりあえず次回は数年後。
 成長した李夏ちゃんとミサのお話。

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