イトオシイ子
あなたが産まれた理由は
その瞳がしっている













FILE:02 遺言












少女が自分の瞳のもつ力を理解したのは、皮肉にも母の臨終でのことだった。
「・・・・・・・・・ママ・・・・・」
「なぁに?」
「しってたの?」
彼女は余計な言葉を口にしなかった。
そこには彼女と彼女の母以外誰もいなかったけれど、母親はにっこりと笑って「知らなかったわ」と答える。
いつかはくると、想っていたけれど。
「私は貴女と違って、まがい物だから」
「まがい物?」
不可解な言葉に少女は不安の目を揺らした。
理解を求めているのに、つかみ所の無い母の言葉がやけに重い。
「見えないの。私は。けれどリカ。あなたは違うわ。
貴女の瞳は確かな力をもっているから」
言葉は愛おしさを込めて音に変わる。
それは、確かな誇りと自信。
「私、一人になる?」
「そうね。貴女の瞳は真実を映すから」
貴方の見ている「数字」が、全てを物語ってるわ。
彼女は歌うように告げ続ける。
憔悴しきっているのは確かなのに、彼女の口にする言葉も瞳も、恐怖が無い。
穏やかに。あくまで幸せだと躊躇わず。
「なんでママは平気なの?」
「リカ。私は二度、死ぬ筈だったからよ」
カウントダウンは続いている。
これが無くなった時、母の時間も終わる。
彼女は気がついていた。
けれどそれが本当に悲しいのかどうか、わからない。
だって自分の母は、あくまでも穏やかな笑みを崩さないのだ。
「わたしは彼らの分の命を貰ったの。
おかげで私は月に逢うことが出来たし、貴女が産めたし。
こんなに幸せなのよ?それに」
「それに」
「やっとレムに逢える」
笑った母の笑みは、少女のそれだった。
だれ?と問いかける前に、彼女はゆっくりと目を瞑じ、重ねて問うことを拒絶した。

未来の無い彼女には
過去を追うことしか頭に無いのだ。

そこに、未来に残されて娘の不安と疑問は映らない。

少女は泣けなかった。
ただ静かに、彼女のカウントダウンを見続ける。

それだけしか、彼女には残されていなかったから。



母親の残した手紙と「ノート」を見つけるのは、彼女の初七日を迎えた、その夜のこと。
未だ中学に上がったばかりの彼女は、しかしいくつもある養子の話を断り、この部屋に残った。
本来なら色々と黙っていない人間が多いが、彼女は頑として譲らなかった。
金銭的な面では母親の残した金はよほどの豪遊でもしない限り大学までは無理なくいけた。
(その遺産目当てがあからさまな人間も少なからずいたことも要因といえる)、
それになにより「数字」の意味を理解した今、彼女にとって「他人」は煩わしいだけの存在だったのだ。

不意に思い、やっと一息をついた彼女が何度入っても子供っぽさの抜けないその部屋に入った理由はよくわからない。
ただそれを待っていたように、そこには何気なさ過ぎて気付かない、置かれた一冊のノートと簡単な手紙。
いつか幼いころ、その目に映すものを告白した時と同じ言葉の書かれた、手紙というよりもメモのような一文。

貴女に、全ての祝福と神の栄誉を

「・・・・・・・・・・・神様なんて、いるの?ママ」

子供のものとは思えない皮肉に満ちた呟きが彼女の口元から滑り落ちる。
ただその表情も、一緒においてあった黒いノートに魅入られ、すぐに消える。


 DEATH NOTE


趣味の悪いタイトルがディフォメされた文字で書かれている、黒い一冊の。

「・・・・・・・・」

手を伸ばす。
少しだけ、その指先が震えたが、彼女の指は確実にそれを捕らえる。

持ち上げる。
やけに重い気がして、同時にやけに手に馴染むのを確かに感じながら、彼女はそれを開いた。

表紙を開くと、やはり独特の書体に英語で色々と書かれている。
そんなに難しい英語は使われていなかった。
彼女はどきどきとしながら、必死になって文章を追った。
読めば読むほど、性質の悪い、冗談のような内容が並んでいる。
けれど彼女は目を離せない。
そして。

不意に思い出す。

やっぱり、あの日のこと。

(・・・・・・・・・・まさか。ママが?)

有名な「事件」だ。
いや、事件というよりも「事象」だと誰かが言った。
もう十年以上前のことになるそうだけれど。
ある種100%死亡率のウィルスの蔓延。
発祥のきっかけは・・・・・・・犯罪者になること。
それだけで、裁きがくだる。
「キラ」と名付けられた、姿無き審判者の手で。

「ママが?」

少女はもう一度呟いた。
足が、手が次第に震えを覚え始める。
こんなもの、冗談だ。そんな確信があるのに、不安ばかりが収まらない。

「・・・・・・っ」

リカはキッと前を向き、部屋を飛び出した。
ノートを持ったまま、リビングに向かい、テレビをつける。
丁度ニュースが始まった所で、立てこもり事件を生中継で放送していた。
大の大人がみっともなく民家の窓から顔を出してなにやら喚いているのが遠くに見える。

彼女にはそれだけで充分だった。

「・・・・・・・・・・・・」

その瞳には、男の名が映る。
そして数字も。

彼女はペンをとった。
何時用意したのか、自分でもよく覚えていないだろう。
それぐらい、無意識のまま、書いてしまう。
その目に焼き付けた名を。

時計を見る。

きっちりと、40秒のカウントの間、彼女は自分の書いた文字の重さを知る。
男が何かに驚いたように一度身を竦めたあと、窓から乗り出すように傾いた。
そのタイミングで人質にされていた人間は慌てて身体を縮め、巻き込まれることからのがれる。

ゆっくりと、スローモーションのように。
男が落ちていく。
窓から、地面に求婚されたかのように。

「・・・・・・・・・・・・・・」

レポーターや野次馬や警察のパニックが画面越しに届いてきた。
それはそうだろう。

そのうち、レポーターが犯人の死亡を告げた。
スタジオの方も一瞬何を言われたのかわからないまま混乱を覚え、あきらかにばたばたとしてきている。

そんな人間達をみながら、彼女はこみ上げてくる笑いを抑え切れなかった。
押さえ切れなくて、息が出来ない位、涙が出てくるぐらい、とにかく笑った。

笑って、とにかく笑って。

限界かと自分で思った直後、聞いた覚えの無いはばたきの音を耳にして、息を詰めて振り返った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
と、いうわけで第三話。
一応本編をオマージュしてみる。
もうなんていうか。
ミサの娘であることを謝りたくなるな、主人公(汗
次回は色々秘密とか設定とか暴露。
んなわけでやっとあの人(ひと?)が登場♪
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