真実はいつでも

たった一人が知っている

おそらく。

娘の選ぶ未来もまた

彼にとっては、予想範疇内のこと







FILE:04 林檎









「林檎?」

「おぅ」


自分の「父」だという存在が、少女にはちょっと納得できないことがいくつか。

その一つが、食べたい時はどんな状況でも自己主張する「林檎が食べたいんだが」という子供っぽい主張。

勿論林檎なんてそんな高いものじゃないが、ほんとうに大好きらしくて、何時もいつも食べたがる。

でも、なぜなのだろう?


その手には、確かにいつも真っ赤な林檎が握られている。


「食べないの?」


彼女が聞くと、死神は小さく首をかしげて、あぁこれのことか、と一息ついて納得した。


「食べないな」


その答えは酷くあっさりしていて、まるで玩具を慰みに持っているといわれても納得してしまいそうな。


「なんで?」


でもそれは確かに林檎。

匂い立つ瑞々しい、香り高い、林檎だ。


「とくべつな林檎だから」


死神はさらりと言って、その果実に口づけた。

齧るのかな?と少女は思ったが、本当に、口づけただけだった。

聖人に心からする福音のような、おたやかな。

けれど死神の祝福なんて、貰う人間は喜ぶのだろうか?


「誰がくれたの?」

「月が」

「パパ?」

「月が、最後にくれた林檎だから」

「最後・・・・・・・」


そういえばその当人の末を、娘は「行方不明」と聞かされ続けてきた。

だからなんとなく、いないけれど死んでいるとは全然思っていなかったことを、今更気がつく。


「パパ。やっぱ死んじゃってるんだ」

「・・・・・・・・・ミカ」

「ねぇ、とーさま。パパの最後って知ってるの?」

「最後?林檎をくれた」

「そうじゃないの。
そうじゃなくて・・・・・・・・どういったらいいのかな?
死んじゃったとき、どうだった?知ってる?」

「あぁ、その時か。勿論だ。俺はずっと月を見ていた」

見ていただけで、何もしなかったのだろうか?

問いを重ねるたびに、この死神への疑問は山のように増えていく。

けれどどうせ、聞いてもきっと形にならない。

少女はこの「もう一人の父」に出会ってすぐに、そのことを理解した。

恐らく感性が違うのだろう。

天然に見えるのは、あくまで人間の感覚なのだ、と。

とりあえずそういうことにしておく。

「どういう、感じだったの?」

死神はふむと思案するような顔をしてから、どこか遠い目で懐かしむように言葉を紡ぐ。


「綺麗だった。死ぬ間際の人間は良くみてきた。
それが存在理由で、生き長らえる手段だったからに他ならない。
どれもこんなもんか、という死に方しかみなかった。
けれど月だけは違った。
あれだけは、死に際も綺麗だった。だから」

「だから?」


死神は言葉を切って、少女はその切れた言葉の端を拾う。

綺麗な死に方は、そういえば自分の母もまたそうだといえたと思う。

穏やかに、幸福そうに。

そして。

自分勝手に。

満足な死なんていうのは自己欺瞞だ。


残された人間のことなんて、欠片も考えていないからに他ならない。

けれど、その死神が紡ぐ言葉は


そういうものとは無縁のような気がして。


「俺はなぜか、酷く安心したんだ」

「・・・・・・・・・・え?」


死神は人の寿命を奪って、その分を生き長らえるのだと言った死神が、安心する、なんて。

一体どういう死に様だったんだろう?

やっぱり結局、疑問だけが増えていく。


身動きできないほど。


「・・・・・・・とーさま」

「なんだ?」

「私も、できるかな?」

「なにを?」

「パパみたいな、綺麗な、安心されるような死に方」

キラを継ぐのなら、おわりまで。

そんな望みが少女の内側に燻り始めていた。

「さぁ。わからないな。それに」

死神は淡々と答える。

感情があるような、無いような。

曖昧でほんのりとした。そんな口調。

「に?」

「お前は見たか?自分の数字を」

「え?」

言われた少女は気付く。

自分が人間とは言いがたい存在であることを。

もしかして、人ならば換算されない「残りの数字」は。

「お前は俺達と同じ時間をすごす。

終わりを知るのは、お前が禁忌を犯した時だろう」

彼女のまさかは真実として死神から告げられる。

「キラ」を続ける限り、恐らく終わらない、自分の時間。

その上で、それを終わらせる「禁忌」を、死神は結局話さなかった。

もったいぶっているかのように。


楽しみを、とっておくかのように。


少女が真実を知るのは、いつのことか。

まだ。

それは死神の目ですら見通すことの出来ない種類の未来の話。



・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・
一応第1部完結という形になるのかしら?
続けるかどうかは本気で反応次第ですが。
・・・・・・・・・・どーでしょう?実際。この話^^;
FILE:05は一応「過去」の話なので。
・・・・・このリュ―君、びみょーに「大人」ですね。
ごめん、案外リカ蔑ろ。
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