美 それは実に恐ろしいものだ それが恐ろしいのは規定することができないからである ドストエフスキー Armonioso 「それがもし呪われるものだといういわれがある場合。 手に入れる手段はあると思いますか?」 ある日、夜神さんの家の監視から一息入れに部屋を出てきた探偵が僕にそう聞いてきた。 どういう意味だろうと首を傾げた僕に彼はまるで幼い子供に言葉が通じないのは当然なことだったと思い直したかの様な顔でふと笑い、わすれてください、と敬語の割にぞんだいな口調でそう言った。 呪われる。 そういえばキラもある種の呪いだよな、とそんなことを思いながら僕は随分と腕が上がった紅茶の入れ方になぞらえて、冷蔵庫のミネラル・ウォーターをやかんに少し高い所から空気といっしょに注いで火に掛けた。 やかんが沸騰しきらないように気をつけながら今日はどの茶葉にしようかと、ワタリさんが用意した幾つもの缶を見比べる。 その脇では冷蔵庫に首を突っ込んで冷蔵庫に、やはりワタリさんによって常備されているケーキを求めて探偵が色々あさっている。 けっこう大きいシュークリームを一口で頬張るのを目の当たりにすると、そのでかい口でいつももうちょっとはっきり喋れないのかなとそんなことを思ってしまう。 いわないけれど。 「竜崎。もうちょっと待っててください。紅茶、入れますから」 「糖分が減っているんです。紅茶も勿論頂きますよ」 「・・・・・・まぁ、いいんですけれど」 そんなやりとりを繰り返しながら、沸騰直前になったやかんから火を止め、選んだ茶葉をティーポットに入れ、やはり高い所からお湯を入れる。 蓋をしめ、蒸らしている間に残ったお湯でカップを温め、暖かくなったそれに香りと色が丁度出た紅茶を注ぐ。 どうせ呼んでも来る筈が無いので、冷蔵庫の脇にそれをソーサーごと置いた。 ありがとう、もないが、別に気にもならなかった。 慣れた、とも言う。 紅茶が冷める前には飲んでほしいなと思いながら、読みかけていた書類に手を伸ばす。 けれど読んでいる間も、頭はさっきの言葉を勝手にリプレイした。 「呪われる、か」 さっきはキラ、だと思ったけれど、ある意味この人も呪いみたいなもんだ、と思うのは失礼だろうか? なんていうか、彼を知った以上、なんだか結局まともな人生歩けないということだろ?まぁ僕位なら全然「なかったこと」にできると思わないでもないけれど。 (どーせ僕はLや月くんみたいじゃないけれど) 頭はよくないし、仕事はコネでどうにか滑り込めた人間だし。 それでも。 (所有物にするのが、呪われるんなら) 「預かれば良いんじゃないかな」 ぽん、と頭の中に浮かんだ言葉が、勝手に口に出た。 え?と意外にわかりやすい驚きの声が耳に触れる。 探偵の方を見ると、いつも大きな目を更に見開いてこちらを見ていた。 「?。なに?竜崎」 「いえ。今の言葉は」 「あ、うん。戯言だよ、冗談。 自分の所有物だと呪われちゃうんなら、今はただ預かっているって言い訳しちゃえばいいかなって。 でも実際そんなことできないよね。ごめん。忘れちゃって」 「・・・・・・・・」 探偵は僕の言葉を、けれどじろじろとコチラを見ながら考えているようだった。 僕といえばぽっと出で考えてもないいい加減な意見相手に、そんな真剣に考えられても、っていう感じなのだけれど。 「ほんと、忘れてくれたほうが」 「いえ。案外あたりかもしれませんね」 「え?」 「懐に入ってしまえば、思い入れてしまえば、見えるものも見えなくなる。 距離を置いて、全体を見て、初めてそれを理解する」 「え?え?」 謎掛けのような言葉を紡ぐ口と、それを裏付けるような強い目。 2つが僕を捕らえる。 逃げれない、と思ったのは錯覚なのだろうけれど。 「けれど」 「?」 「遅いのかもしれませんね」 「・・・・・・・・?」 僕は問いかけるのも忘れて、探偵はまるで今までの会話自体も忘れて、再び書類とお菓子にお互い打ち込む。 少なくとも僕は打ち込む不利をする。 このつい十数分のことを、僕は忘れたふりをして、ずっと覚えておこうと思った。 |
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