1 「銀行ですか?」 前回に引き続き、いまだ中学生サイズ状態絶賛(一部)実施中の海堂は義父母(開き直ってる)の申し出を小さく首を傾げながら確認した。 「そーなの。今回は結構最初勢いできちゃったから。軍資金がね〜」 「息子ん家入り浸ってメシたかって今日と観光しまくってて金がねぇもねぇだろ?」 ぼそぉ、とこの元下宿の代家主が殆ど愚痴に近いツッコミを入れる。 恋人(しかもであった頃の今とはまた違った楽しみ方で色々できる状況)との日常に、親ほど邪魔と思う生き物はいない。 生んでくれた恩なんかくそ喰らえ、だ。 特に男の子なんだし。 ・・・と、ゆーかそのお楽しみ状況を作ったのも両親なんだけどね?実は。 「やーね。ハル。今日の観光は拝観料というお賽銭の浪費よ? んなわけで案内してもらえると嬉しいんだけど、かおるちゃん」 「っ」 にこにこと笑いながら、それでも現実のことを告げた彼女は、でもその手にしていた箸で(因みにここには多数の人間が出入りする為、客用の塗り橋が常備されている。一部、自分専用を用意するものもいるが)風を切った。何気ない動作で、息子の眉間めがけて文字通り「撃った」のだ。 それを叩き落とせないような息子なら最初からいらない、と言わんばかりに。 「わかりました。そんなに遠くないですから」 「ありがとう。助かるわ」 しかし海堂までもあえてそれをした義母もあっさりと交わした恋人もするーし、話を進める。 いーかげん日常茶飯事になった光景にいちいち突っ込んでいられなくなった、とも言う。 「かーいどぅううぅう」 「センパイはそろそろ前期試験の準備ですね。 FWもいつくるかわから無いんですから、ちゃんとやっておかないと大変ですよ」 「いえっさー」 疑うつもりは無いのだけれど。 愛が足りない、何て思ったのだ。わがままとわかっていながら。 いや、嫁さんが自分とこの両親と仲良くしてくれるのは、充分プラスのはずなんだけどね?今の時勢から分析すれば。 いい天気だった。 風も緩やかで心地好い。 格好の散歩日和という奴でだからヴィジュアル的には「若めの老夫婦と孫の3人組」も全然不思議じゃない。 実は旦那夫婦と嫁だけど。 「んーきもちいーわねー。 ね、かおるちゃん。お昼どっかオススメある?食べない?勿論奢るわよ」 義母はテンション高いし、義父は相変わらず存在感のないっぷりを披露している。 (ここまで意識しないでいられる相手ってのも初めてだな) 存在感の殆ど皆無ともいえる「なさ」に、困った事に感心すら抱く。 その息子は突っ立ってるだけであからさまなまでの存在感を持つというのに・・・・・吸い取られたか? って。んなアホな。 「お義母さんたちの好きな・・・わかる範囲で、ですけど。 俺自身、あんまり外食ってなれてなくて」 「あら。そうなの。んーでもあんまり私も詳しくないのよねぇ。 やっぱお豆腐とかかしら・・・?」 「てんいち」 突然、ポツリと。 存在感のない人が呟いた。 「へ?」 「本家の天下一品・・・・・が、いいかな」 北白川が本店だって聞いたから。 そうと告げた男はうわん、と笑い、なんだか。うん。やっぱり。親子なんだなーって。あ、えと。 「じゃ、じゃぁ銀行いった後、少し回りながら行きましょうかっ」 「そ、そーね。いきましょ」 なんか義母さんと二人して慌てながら話をつける。 なんかちょっと意外だったのが自分だけじゃなくてほっとした・・・とは暗黙の談。 ゆっくりした足取りで、大型の都市銀行の看板が見えてきた。 「あ、あた」 「いきましょうか。ま。銀行は逃げないわ」 確かに。 逃げはしないのだが・・・それは、なんていうか。 後々逃げてくれりゃぁよかったのに、なんていう不条理なことをいいたくなったりするのが、このシリーズのお約束ってやつなわけで。 「っ!」 予兆、はそう。 本人達ではなく。 一人寂しく仕事に向かっている新人助教授の元とかでじわりじわりと怒っていた。 「な。なんで靴紐が両方同時に切れるんだ? 左右の足にかかる力は均等とはいいがたい。購入日及び使用開始時が同時である以上、こんなことが起こるはずが・・・」 ひとりぶつぶつ分析している乾の目の前を、今度は黒い猫をとっ捕まえた黒い鴉が低空飛行で横切った。ぎゃーぎゃーいいながら。 「え?」 乾は所謂迷信のたぐいを信じない。 というか、信じないようにしている。 本物知ってるから。 が。 「・・・・・・・えーと」 立ちすくす彼の脇を、猛スピードで霊柩車が横切っていく。 事故ってもしらないぞ? とゆーのは、おそらく。 現実逃避の、極みに他なるまい。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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