2 大入りとはいわないが、そこそこ込んでいる・・・それが現状だった銀行の要因は、おそらくメンテナンスのためにとATMコーナーが使えないというのが一番大きかっただろう。 「メンテって夜やるんじゃないのか?」 ぼそり、と海堂がつい口にした疑問はやはり皆考えることなのか、何人かが受付嬢に当り散らしている。 んな暇があったら手続きすればいいのに、とも思うのだが、実はここに銀行というシステムのなぞがある。 ATMでのたとえば振り込み手続きと、窓口での振り込み手続き。 勿論手間を考えるとどっちもどっちだろうが、なぜかその手数料は全額がいくらによるかにも関係してくるが、場合によっては倍近く、そのコストに差が出てしまう。 勿論、ATMのほうが安い。 人を介さないほうが安いとは、と嘆きたくなる人間もいるかもしれないが。 「まぁ引き落としには関係ないけどね」 と今日そこに来た当人は気楽なものだが。 「・・・・・・・?」 「お義父さん?」 本当に何気なく天井を仰いだ男が、妻の行動には目を向けず少しだけ首をかしげた。 見咎めて、というより。 「何か会ったんですか?」を暗に問うと彼の指がす、と一箇所を指し示し・・・ それから。 場違いな音は、殆ど同時。 「え?」 「きゃぁ!」 混乱と悲鳴の中を、パラパラと生まれたガラスの破片が降ってくる。 「?!」 「・・・やっぱあれ、爆弾だったかー」 「って、んなっ!!」 にっこり言われるにはちょっとばかり聞き捨てならない「やっぱり」に海堂は言葉を詰まらせた。 いや、どっちかっていうと「なんていったらいいんですか?」っていうか? 「ま、人も死なない花火程度のだったし。それよりもこれからのパターンだよね」 「〜っ、分かってます」 実経験、ありますから。 言いながら少年にはありえない目の鋭さで彼は入り口のほうを見た。 思いのほか、パニックは大きくなっていて、人がなだれのように「外」を求めている。 が、それを許さない連中が逆にそのガラスの戸から入ってきた。 黒尽くめ、黒サングラス。あと、それから。 「・・・・・・日本の銀行強盗がCz75?モデルガンよね」 「イングラムが必要な強盗ってそういないと思うけど・・」 などというコメントをのんきな東京の夫婦からもらうこととなった来訪者は4人。 おそらく未だ20代いくかいかないかの「若者」であることはようと知れる。 その声と多少レベルの低い、身のこなしに。 「か、金だせ!金だ!!」 声まで震えている。多分、訓練の人のほうが上手だよな、とか思っているのは本物の銃を持った連中とカーチェイスするのが日常の人間くらいなモノで(本人達にしてみればそんな日常勘弁してほしいわけだが)普通の日常を過ごす人々はそろって声を上げ、逃げ惑う。 店員達の表情も硬い。 自分達が作り出した状況に満足したのか、いわゆる「銀行強盗現行犯」と分類できる若者達の様子が徐々に調子付いてくる。 「バックに金つめてもらおうか」 窓口嬢にどこかごみ捨て場から拾ってきたようなスポーツバックを押し付けながら、一人がそれを求めた。 震える手でそれを受け取りながらも、彼女はゆっくりとそのカバンのチャックを紐解き、他の受付嬢達とそのくちからそう日頃見る機会もなさそうな札束を詰めていく・・・ 「どうしますか?お義母さん」 「うん?」 男達のうち一人は壁際見集めた客達に向けて本物ならば反動が大きすぎてあてられもしなさそうな銃を構えている。 勿論、彼が訓練されているのならば別だろうが、どうもその様子もない上、何より気持ちの基本的な基盤が違う。 そんなわけで確信をもって海堂はとりあえず聞いてみた。 「指示して頂けるなら、この不快な連中を排除することもいとわないんですけど」 「すっごい真顔で自信もって平然と言う内容じゃないんだけどね、薫ちゃん。 まぁそういう日常ってことなんでしょうけど」 「でも薫君。被害者側にも誰か協力者がいる可能性もあるから、気をつけてね」 「例の爆弾、ですか?」 「あのタイプは遠隔だけど見えるところじゃなきゃね。タイマーはありえないと思う」 「わかりました」 至極真面目に海堂はうなづいた。 なんかもうナチュラルにいまどきの中学生じゃないが、中身は立派な成人男性だ。 「じゃぁそちらはお任せします」 彼の、続けた言葉のほうが、合図だった。 少年が真上に跳躍する。 「え?」 「っ」 本当に、綺麗に。どんなバネだか、アクロバティックの先輩並に。 そのまま手の中にあったものを鋭く空に走らせる・・・ 見張りの男が、痛みに声を上げた。 「なっ」 その男は自分が傷つけたものの軌道を追って愕然としていた。 だってそれはどうみても、キャッシュコーナーのところに備え付けられている銀行の封筒にしか見えない。 「んなっ」 「っ」 蹴り上げた足が常識に固まる男に直撃する。 「一人」 ぽつりお呟いた声は、そのまま倒れこんだ男の音に飲まれてしまった。 「なっ」 他の強盗が混乱に声を上げる中、人影は駆ける。 加害者も被害者も呆気に取られている中、もう一仕事を任された夫婦が冷静に周囲を見ていた。 「どいつだっ!ふざけた真似をっ」 「どっちがふざけているんだ。大人の癖に」 子供に言われるにはこれ以上ない呟きとともに、後ろに回った少年が一撃を拳にこめる。 「っい」 そんなこんなで立て続けに二人目を倒した海堂はすい、と立ち上がり、挑発的に口元をゆがめた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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