key −乾海?

「あ」

妙に重い音がして、それがリノリウムの床に落ちた。
床が木製だったら、おそらく傷がついていただろう。それほどの、衝撃。

「海堂先生?」
「すいません、鍵落としました」
「鍵、ですか」

担当編集者が、戸惑ったように言ってきてもそれはまぁ仕方がないなと思いながら、海堂はそれを手元へと引き寄せた。
一見して十数個。どこの管理された組織のものかと想われてもおかしくないが、勿論そんな大層なものではない。
話したところで殆どが自分にかかわりのないものだというのも事実なのだが、必要なのに代わりはなかった。
なにか聞きたそうな目線を一応は社会生活で培った愛想笑いに変えて、まぁ人よりは多いと思いますけどね、とお茶を濁した。

乾と住む古い下宿。
月に1度と頼まれた大阪の現在不在の推理作家のマンションルーム。
一応住んではいないが、締め切り前などに自主的ヒキコモリ用にと時々別の用途で使われる、県境にあるかつて桃城と住んだ日本家屋。
何故か「なにかあったときに使ってくれ」という謎の言葉と共に押し付けられた神戸と東京の先輩たちが住む部屋の鍵。
車は自分のものと、やはり現在イギリス暮らしの乾の恩師のボロベンツの。
乾が使うバイクの。
それから英都大学の火村(現在は乾のと言ってもいい)研究室の。

やっぱり持ちすぎだろうか?
泊まりにとった安ホテルのベットの上で、薄いスプリングをへこませている鍵束を眺める。
一応全部どれがどれか分かっていて、自分は不便を感じていないのだが。
だが、どれもが自分を信頼して預けてくれたものである以上、やはりどこかに閉まっておく、というのは違う気がした。

「っていうか、結局は先輩がすぐになくしそうなのが怖いんだろうけれどな」

信頼の、かたまり。
時として、それは乾と一緒にいるという事実も含めてと考えれば、少しでもココロが踊るというものだ。


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 −桃リョ

「はい」
「・・・ッ、コレ、合格通知ってことでいいんだよな?」
「好きに、解釈していいから」
「当たり前だろ。っし!勝った!」
「なんなの、その言い方・・・
大体、俺の部屋の鍵で勝ったってなに、勝ったって」
「なに言ってんだ、俺はこれまでずーっと、これを貰うために戦ってたんだぞ」
「RPGみたいなこと言うし」
「じゃぁコレって勇者の証?」
「うわ、似合わない」
「結構勇気ある方だと想うんだけどな」
「単純に、お祝いだからね、お祝いっ!
桃先輩がちゃんと語学大卒業できたって言う」
「わーってるって。それでがんばったんだから」
「・・・うん」
「じゃ、あとで、な」
「別に一緒でも、いいけど」
「バーカ、ここはやっぱ鍵使ってお邪魔するってことに意義ってやつがあるんだろ」

「馬鹿桃」
「お前をおっかけるって決めたときから、頭良かった記憶はねぇよ」





塚不二


「いつつくったんだ?」
「なにを」
「うちの、鍵だ」

渡したいと想っていたが、どうしても戸惑っている彼用の鍵は相変わらずポケットの中で冷たく存在している。
なかなか逢えないなとは想っていたのは確かだが、いきなり家に帰るなりお帰りといわれるのは動揺してもおかしくないだろう?

「手塚。鍵の複製作るのって、どれくらいかかるか知ってる?」
「なに?」
「あっという間なんだよ。
"ちょっとトイレが込んでた"っていいわけ出来ちゃうくらいの時間で、作れるの」

怖いよね。
それをやらかしたと笑顔で暗に告げる恋人に、珍しくため息。
大概、自分が押していた自覚が在るだけに、こんな告白を聞く日がこようとは。

「オレが尻込みしていた間に、相変わらずの行動力か」
「してたの?なんかその言葉自体が意外かも。
ま、いいか。
とりあえず抜き打ちでくるからね。変な影があったら鍵、一杯つくって皆に配るから、そのつもりで」
「果たしてお前の言う変な影というのがどういうものか見当もつかないが・・・
気をつけよう、とでも言っておこうか?その分、覚悟しておけ、ともな」
「わかんないくせに、なにその自信」
「アイシテル、というのはそういうものだ」




大菊

お揃いの鍵に、おそろいのキーホルダーをそろえようって買い物に出た。
でもこれってば、指輪の方が、先のが正解っぽいねって言ったら、あれ?英二は指輪の方がいいんだ?、って。
でも鍵って、やっぱり相手のテリトリーだしょ?
大石からくれるものはぜぇんぶ大事だけど、やっぱ鍵って"一緒"を許可してもらえる文字通りキーワードだし。

それより、今はこの鍵に似合うの、探そうよ。
キーホルダーなんてそれこそ100円ショップから色々それこそどこにでもあるんだから"一目ぼれ"って難しい。
どれもこれもどっかでみたな、なんて想ってしまって。
大石もそうだねって一緒に悩む、悩む。

あまり知らない町。
これから住む町。
ふ、と足が留まったのは小さなガラスウィンドウ。

「英二?」
「大石、これ」
「・・・・・・これ?」
「チェーンを買わなきゃね。別に」
「あ」
「英二。俺たちが今探してるの、なに?」
「・・・・キーホルダーです」
「でも、英二はこれがいんでしょ?」
「うん。すごく」
「オレも、これがいい」

笑みがこみ上げる。
大石が無理してるんじゃなくて、ホントにそう想ってるってわかるから。

「じゃ、おじゃましまーすっ
ショウウィンドウに飾ってある対の指輪くださいっ!」



・・・・・・・・・・・
塚不二はめずらしく不二優勢?かと想ったんだけど
大菊、keyじゃねぇ、と想ったのは秘密だ、

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