maigo no hitomi 家と部活、どっちが大事なのと聞かれて、きっぱりと「部活」と応える桃城 武、中学2年生。 正直な返答のご褒美はおかんの拳一発で、結果、彼は部活を休んでまでその母親の実家において蔵の整理という、虐めにしか見えない任務を課せられることになった。 実際一体ソレまで誰が踏み込んだんだと想うくらいに重い扉を開けて、ついでに分厚い埃の山を見て唖然となる。 え?これの何をどうしろと? 「かーさ・・・」 「はい。箒」 「むしろアレだよ?!雪かきとかの奴だろ、絶対」 幅広の。それが活躍しそうなくらいたまってる、埃。 「それなら納戸の方にあるわよー」 「いやそこじゃねぇし!?」 明らかに普段使っていなかったのがよくわかる。 今更掃除の意味がわからない。 「よろしくね」 「うぁー・・・」 訴えるものの、聞いてくれるようならそもそも最初からこんなの押し付けてこない。 「マジで異世界だな。ここ・・・ つーか・・・どーしたもんか・・・」 それでもやらないと帰れないのも事実なのだろう。 仕方がないので下っ端根性を思い出して作業に入る。 勿論、マスクは着用だ。 半ばヤケにやっていたら、逆に作業ははかどった。 殆ど「牧場の干し草かよ」と突っ込める山を、これ燃やしたらすげぇだろーなーとか思いながらふと薄暗い中に別の色をみる。 木の茶色ばかりだったものだから、かなりの違和感を抱いた。 「フランス人形?」 それがドイツだろーがロシアだろーが、アンティークも人形も知識の無い武には金髪と碧眼の人形ならそんなイメージだ。 ばら色の頬 まん丸の海色の瞳 たおやかな金の髪 愛らしいレースのドレス 「へぇ、美人さんじゃん、お前」 なんでこんなとこにいるんだ? 勿論ビスクドールにそんな問いを応える力はない。 場違いな愛らしさの中で、ただ佇むだけだ。 実際、桃城にもそれ以上できることはない。 せいぜいあとで顔を拭いてやるくらいだ。 雑巾でだけど。 とりあえず先ずは床。 それから。 大真面目に手順を考えている彼が気づくことは無かった。 自分が見つけたビスクドールには、周囲に場違いなほど・・・ 埃がなかったことを。 翌日。 少々肩を凝らせながら、今日はやっとという気分で部活に顔を出す。 いつもと違うところを遣った体力は微妙に回復しきっていないが、こっちに顔を出すほうがずっと気分がいいのも事実だった。 「ちぃーす」 「あ、桃」 「なんかすげぇ久しぶりな気分です」 「一日休んだだけだろ?」 ゴールデンペアとの挨拶にも妙に和む。 あー、いいなぁとか想っていたら、脇から練習バカのツッコミ。 「ふん、一日サボればその分遅れるだろ」 ・・・・・・・・ッさい。 「サボってねー。お袋の命令だっての」 逆らったら飢え死にするとわかっていて、無茶が出来ようか? 当然のコトを言ったつもりだったが、その脇を小さな身体がすり抜けながら口元を膨れさせているちびっこの一言。 「俺よりおかーさんがいいんだ?」 「・・・・・・・・・・いや、別に。むしろ公平な話で」 っていうか。生存的な意味で。 慌てた桃城に、いつものいたずらっ子の笑みで恋人の後輩はにやりと笑う。 「わかってる。冗談」 それを聞いて、にゃんこが笑い、その飼い主がたしなめた。 「おちびいぢめっこー」 「越前、あんまりいぢめっこやるようじゃ、昨日の様子桃に話しちゃうよ?」 「・・・・・・・・・・・・な、にを」 とたん、真っ赤になったちびっこの顔。 意味がわからなくて、首を傾げる。 「様子ってなんだよ」 「なんでもないですって」 本人は必死になって掘り下げる様子から逃げようとするが、それを平然とぶっつぶすのは、さすがというべきか、部長の役目。 「あぁ。妙に越前の昨日の様子は調子が悪そうだったな。今日は大丈夫なのか?」 「・・・・・・・手塚。すばらしくタイミングの悪い一言をありがとう」 「ふむ?」 自分が落とした爆弾の意味を全く解していない部長殿は首を傾げた。 ただ自分の後輩(部下とは言うまい)がものすごくアホな顔になったことに、更に首を傾げただけだ。 にゃんこが嫌そうにお気に入りの玩具をひっぱる。 そして玩具の方もすごく大真面目に同意した。 「うわ、桃の顔最悪ー。おちび、いくぞー」 「うぃーす」 「あ、待てよ越前ww」 へにゃへにゃのまま追いかけていく、ある意味心配以外の何者でもない後輩に、ふ、と不二が呟く。 「・・・・・桃、丈夫だなー」 「そりゃ、昨日一日一人で大掃除してたって話だけど・・・」 若いんだから、というデータ屋の言葉に、だが不二はどこか不思議な目線を漂わせた。 「ううん、体力的な意味・・・も、少々意味あるか」 「妙に歯切れの悪いことを言うね、不二が。珍しい」 大石の言葉に、彼自身も眉を潜めた。 「んー。はっきりみたわけじゃないからなぁ・・・ ちゃんと"みせてもらえば"・・・ ま、桃が気にしていないなら、いいか」 「・・・・・」 「・・・・・・・・」 そこまでで、我に返ったようにいつもの笑みを浮かべる彼に、手塚を除いた他のメンバーが情けない顔になった。 っていうか、思わせぶりすぎるんですけど。 「っていうか、むしろ俺たちが気になるんだが」 「だよなぁ・・・」 02 「あれ?」 なんか、調子が悪いなと桃城は首を傾げた。 意識は追いつく。 目も追える。 でも、身体が追いついていかない。 さっきの悪友の言葉がいやがおうにもリフレインする。 だが、身体を動かしていなかったわけではないのだ。 ちょっとした、タイミングのずれ。 「なんだ?」 首を傾げる桃城を遠くで見ている3年組は些か同情の色を帯びていた。 当人全く知らないところだが。 「・・・教えたほうがいいと思う?」 「教えた段階で怖がっても困るんだけど」 「不二、どうにかできるんでしょ?」 「なんで決め付けるの?」 「不二だから」 「理屈じゃないね、らしくないよ、乾」 「専門家っていう認識は充分理屈だとおもうな」 漫才めいた先輩たちの会話は勿論誰も聞いていない。 首をひねる桃城と、様子がおかしい事に意識が持って枯れた閉まっている越前と、そんな二人にあきれている海堂と、困ったことにこれでは不調の連鎖だ。 「ふむ。確かに少々この流れはあまりいいとは思えないな。 可能なら頼みたいところだが・・・」 「だから。アレは桃が自分で気付かないと多分もっと酷いことになるよ。 それにしても鈍いなぁ・・・」 「ねぇ、不二ぃ。ホントに桃に幽霊ついてるの?」 みんなが話題にしながら避けていた単語を、とうとうニャンコが口にした。 その場の空気が固まる。 言いだしっぺだけが、穏やかに肯定した。 「うん。幽霊・・・とは少し違うかもしれないけれど、そう説明したほうがわかりやすいでしょ?」 「少し」 「違う?」 「だって不二、さっき桃に憑いてるって…」 いってたじゃん。 口を尖らせるクラスメイトに、まるで聞かん坊の子どもをあやすように不二は菊丸に顔を近づける。 「幽霊とは言っていないよ? どっちかっていうと、妖怪?」 ・・・・・・・・ 「もっと質が悪そうだな」 「そうだね」 「妖怪って、河童とかだいだらぼっちとか鬼○郎とか三輪明○とか」 「英二えいじ、ちょっとラストのは問題発言」 「ふにゃ?」 あの人は立派な人間ですから。 「自覚無いよ。こいつの場合…」 「なんか変なこといったかにゃー?」 とめられた理由に首をひねる。大真面目に。 「不二。説明をつなげてもらってもかまわないか?」 「あー、うん。桃についてるのは金髪のビスクドール。昨日の話聞く限り、例の蔵ってとこで目を付けられたんだろうね」 「人形?」 人形。魂が宿りやすいとか髪が伸びるとか血の涙を流すとか。 あー、えーと。 「九十九神って奴か?」 「流石乾。その通りだよ」 「つくもがみ?」 「あぁ、聞いたことあるな。100年立った道具が魂を宿すっていう伝承だっけ?」 博識な大石が記憶を辿っていう。 ふむ、と手塚がその脇で首を傾げた。 「そんなコトを言ったらうちは妖怪だらけになってしまいそうだが」 「さらっと実家自慢の自覚が無い手塚はともかくとして。 別に悪さする類じゃなかった気がしたんだが」 「大概がそうだよ。妖怪化するってのも、100パーセントってわけじゃない。 多分蔵に放置されて、淋しかったところに桃が来て、んであのこのことだからちょっと褒めたら懐かれちゃったってトコかなぁ」 越前みたいに? 上げられたたとえに、皮肉にも納得しそうな空気がある。 だが一人、悪戯のようにそれを否定するかのような言葉を発する部長殿。 「本当にそれだけか?不二」 「なに、手塚」 「だったらお前は、あのように妙に不安そうな物言いにはならないだろう」 「・・・・・・・・」 03 「桃先輩、今日何か調子悪いみたいっすよー」 「っかしーな?別に立ちくらみがあるわけでもないのに、なーんか下っ腹に力がはいらねーみたいな・・・」 「自分の身体でしょー?」 「そーだよなー」 なんでだろ?と自分のコトなのに自信なさげな桃城と、心配を隠しきれていない越前と。 そこに割ってはいるのは、不二。 「桃」 「先輩?」 「あのさ。君の家の蔵にあった人形、くれない?」 「へ?俺話ましたっけ?」 「掃除したって時に言ってたよ」 なんでもないことのようにいう不二は、どうして欲しいのかも言っていない。 だが桃城は「あぁわたさなきゃいけないのか」と何故か納得していた。 既に自分がどんな話をしてたかなんて、世間話程度、記憶にない。 「・・・・・・・・・・・・いってたっけ? あ、いや別に・・・一応じーちゃん家のですから、そこで確認してからになりますけど」 「うん」 「でも先輩が人形欲しいってなんか怖いッスね」 「それ、どういう意味かな?」 にっこりと笑いながら、勿論バックは真っ黒く。 自分の失言に、桃城は土下座する勢いで謝罪した。 「・・・・・・・知らぬが仏ってこういう時使う?」 「そうだね。英二、表現正解」 「わぁい」 「そこか?」 それより実はもっと怖いんだよってコトを、こっそり話してるゴールデンコンビとそれを苦い表情で笑う情報屋。 早いほうがいいと判断した手塚が、指示を飛ばす。 「とりあえず桃城。 お前は今日ボールに集中できないみたいなのでランニングがてら持って来い」 「うぃーす・・・ 駅二つ分とか、ふつーですよねそーですよね・・・」 ぶつぶつと、呟いた言葉はだがそれこそ「知らぬが仏」というべきこと。 04 「じーちゃんから許可貰ってきましたよ。 でもホント埃まみれで・・・ちょっとは拭いてやったんですけど」 「なにで?」 「なにって、雑巾で」 「・・・・・・・・・・・・・・・・バカ。ソレだ」 「へ?」 「不二」 「うん。間違いないよ」 「ふむ・・・少々見せてもらってもいいか?」 「へ?あ、まぁどうぞ」 「げ、あたまとれたー」 「昔のビスクドールってああなってるんだよ。 どうしたんだ?手塚」 「・・・・・・ 桃城。本当に貰っていいんだな?これは」 「へ?あ、まぁうちのじーちゃんも埃かぶせておくよりはって・・・」 「そうか。乾。デジカメ持っていたな」 「うん?」 「不二。彼女は大事にしてくれる相手のところなら大人しいものだとみていいな?」 「うん・・・どうしたの?」 「よろこべ会計担当。当分バイトはしなくて事足りそうだ」 「どういうこと?」 「っていうか俺会計担当って呼ばれた? それ、俺のコト?手塚」 「初期のジュモーだ。間違いないだろう」 「じゅもー?」 「じゅもん?」 「まもー?」 「ボケに活用がないぞ、それ」 「ジュモーってアレっすよね? アンティークドールの・・・」 「あぁ。見ての通り、な。 詳しいことは専門ではないからはっきりとは言えんな。 お爺様の知り合いの骨董商に一度鑑定してもらったほうがいいかもしれんが・・・おおよそ1880年代といったところか・・・ うまくいけば100万超えることができそうだな」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・へ?」 「寄付に感謝するぞ、桃城」 「あーあ・・・残念だったね、桃先輩」 「いや、あー・・・まぁ、テニス部、に還元されるんだし・・・」 「号泣しながら言い訳がんばるなー」 「他に何言えばいいんだよ?!」 ==========
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