Mr.Rain Drop















 01



恋人は、雨が降ると不機嫌になる。
外で身体を動かすのが、それはそれは大好きな子だから。

「海堂。問5」
「あ、はい・・・」

間違ってるよ、といわなくても、こちらの意図する言葉を理解は出来るんだけど……
折角出来た時間での勉強まで集中力散漫なんだから。

いっそ凄いって言っちゃうべきだろうか?
普通の人は「両立できない」っていう言い訳が多いのに。
この子ときたら、両立しないとバランス取れないんだからと。

「あ」

掛けていた消しゴムの圧力に、紙が負ける。
びり、っと音が立って、ノートの付け根が破れた。

「・・・海堂」
「あ、すいません」
「集中、やっぱりできない?」
「いえ。そんなこと、ない、ですよ」

苦笑いのような否定に、こちらの表情も少しにごる。
自覚が、あるんだかないんだか。

「ねぇ、海堂」
「はい?」

だから、君に提案しよう。

「ちょっと、散歩にいこうか?」
「え、雨、ですけど」

みなくても解る程、音を謳う外の天気。
おいおい、君はその雨の中でも、オレの家に来ただろう?

「うん。だから。走らないし、筋トレもなしで、散歩」
「・・・・・・・散歩・・・、ですか」

ほんと。
こういう普通のコト、苦手だよね、君は。

「じゃぁ、デートの方がいい?」
「で?!」

こういうところもかわいいんだけれど。

「どの道その集中力じゃちょっとちゃんと出来そうに無いからね。
どうする?散歩とデート。どっちがいい?」

サンポデイイデス、って困ったような声、ちょっと可愛いって想ったのは、勿論秘密。



02



雨音をどこかの音楽家の調べに例えたりとか。
そんな小難しいことをしなくても、自然の音に人が敵うはずもないというのに。

時折傘に隠れた人陰とすれ違うものの、不思議とその顔や服は隠しているわけでもないのに印象が薄い。
近くにもっと気になる相手がいるからなのか、それとも。

「そういえば、知ってる?海堂」
「なにをですか?」

自然の調べをヴェールに、普段の自分なら知っていてもクチにしない雑談を零す。

「日本の技術なら、台風の進路ってコントロールできるっていう都市伝説」
「都市伝説なんスか?それ」

まぁ普通の都市伝説とは印象が違うかもしれない。

「一応ね。実際不可能じゃないらしいけど」

あくまでも技術的な意味で、実行に移す際のコストは謎だけれど。
そんなことを話すと、彼は感心して、でもまるで教科書から引っ張り出したようなことを言い始める。

「へぇ?でも台風って被害も大きいけど、水量とかもまかなってるんでしょう?
昔みたいにくるとは思っていなかった、ならともかく、ちゃんと対策出来るなら、ソレに対して社会が順応すべきじゃないスか?」
「・・・・・・へぇ?」

単に「じゃぁなんでやらないんだ」じゃなくて、自分の考えを口にする。
勿論ただの中学生の俺たちの意見なんか誰も聞かないだろうけれど、考えることが無意味とは思えないし、彼自身が導いた結論もどこか誇らしい。
でも、やっぱりちょっと意外。

「なんすか」
「いや。君が"自分の方が折れるべきだ"なんていうなんて、と想ってさ」
「・・・・・わるかったっすね。折れないには定評のあるタイプで」

勿論、自分のことについてはって、わかってはいるんだけれどね?

「自覚はあるんだね。
まぁ海堂のそんなトコも俺は好きだから、いいんだけど」
「はいはい」

おや、折角の告白なのに。

「流すなぁ」
「雨ですからね」

自分で言ってから、つまらないことを言ったとばかりに海堂の顔がくしゃりと歪んだ。
別にいいのに。かわいくて。

「雨に、隠れちゃうかな?」

ちょっと、悪戯心が。

「何がですか」
「キス」

唇を滑るのに。君と来たら。

「断固拒否します」
「ちぇ」

そんな風にくだらないことを言い合いながら、いつものマラソンコースをゆっくりと傘を差して歩く。
特に真新しいものがあるわけじゃない。
晴れていれば新しい発見もあったかもしれないが、雨は細かくて、辺りは煙ったようになっているから、やっぱりわからない。

いつもと、同じか、違うか、なんてそんな、些細なこと。


 03



果たして穏やかな時間が流れる。
雨音が刻む時間は、酷く独特で心地よい。
ほんの少しだけ寒い気もしたが、傘のせいで触れることが無いはずの肩は何故か確かに暖かいような気がした。

「・・・・・・・特に」
「ん」
「なにが変わるってわけでもないですけどね」

雨の街中。
ランニングコース。
代わり映えがしないのに、別の世界のような、そこで。

「まぁあえて言うなら、普段よりもにぎやかで、静かってところかな」
「にぎやかで、静か」

言いえて妙だなとそんな風に想う。
雨音は決して静かというわけではないのに、普段聞こえる街の雑音はどれも酷く遠く、にぎやかな印象が無い。
その分か、傍らの人の声がいつもより好く聞こえるような。
声が低い人だから、注意深く聞いていないと、聞き落とすような気もするのだけれど。

かんがえてみれば、聞き落としたって、ちゃんと理解できてるかどうか怪しい時ってのが多々あるんだからどうしようもねーけど。


わかってるのに。

「海堂?」
「・・・・・・いえ」
「なにが?」
「さぁ」

なんの、話なんだろうと思いながら。

「難しいね」
「そうですか?」
「けっこう」
「・・・・・・えーと、とりあえず」
「はぁ」

いつもと、全然変わらないのんびりと奇妙な。

「大好き」
「・・・・・・・帰りますか」

もらえた言葉と、戸惑いと、あと、もう色々。

「ちょっ、さらっと流されてる気分なんだけど?!」
「そうですか?」
「・・・・」

素直じゃないこちらごと、全部貰ってください。
ほら。

「俺の性格知ってるなら、素直についてきてください」
「・・・・・・・了解」



04


雨はやんでいない。
相変わらず外も、そして部屋の中すら音で浸食している。

だがそれに耳を傾けるものはここにはいない。
彼らはお互いの声と熱に必死で、外に耳など傾けない。
興味も抱かない。

ただ、ただ。
互いの普段呼び合う名前と、他の誰のものでも興味がないし発することもないだろう睦言と、それからいつもより少し高い体温。

あまりに狭い世界が完璧であり、絶対。
勿論、一時のものなのだと、お互いきっと理解しているのだけれど。


「なぁ、先輩」
「ん?」
「雨・・・降ってますね」
「うん」
「先輩、雨が好きなんですよね」
「うん」

「なんで、ですか?」

なんとなく、今更のように問う。

内緒、というキスがそのまま答えになった気がした。




・・・・・・・・
一応1・2が乾目線、3・4が海堂目線ですか
比較的バカップル。

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送