DATE BY DATE (外伝 この時期に教育実習? 珍しいな、と赤野は朝礼の際に教頭が告げる言葉に首を傾げた。 大体その手の関係と言うものは、それこそ前年度から話が進行しているのが普通の筈だし、職員会議の議題にも先に上るはずなのだが、噂話すら聞いていないというのは、正直おかしい。 しかし現実には実際そこに「実習生」はいるわけで。 「あ、犬丸といいます。短い間ですがよろしくお願いします」 「佐野です。よろしゅぅに」 酷く気の弱そうな声と、このあたりでは当然珍しい、こってこての大阪弁が職員室に響く。 職員室と扉続きになっている校長室から入ってきたのは、酷く若い、なるほど「教育実習生」ぴったりのスーツの着慣れない雰囲気がはっきりとした二人だった。 納得した空気が広がる中、いきなりがたん、という音が隣りからしてその音に驚いてそちらを見る。 いいたいことを上手く見つけられないまま、口をパクパクと開いて呆気にとられているこの同僚なんていうのを始めてみて、正直時期はずれな教育実習生、なんていう話よりもこっちのほうがレアな気がするな、と内心で思った。 「大丈夫か?小林」 「あ、い、や。すまん。赤野」 本来なら必要もなかろうが、あまりに動揺している様子に手を貸すと、やはり動揺が収まらないのか意外なことに素直に彼は俺にすがってどうにかイスに座りなおした。 この光景を植木の奴に見られたら・・・いや、それよりダンドーが見たら、とおもうと不安になるが、この時間生徒達はクラスにはいっていなければいけない。 だいたいイスから転げ落ちた同僚を助けただけで拗ねられるのは割に合わないことだし、まぁ大丈夫だろう、考えすぎだと信じよう。 「なんだ?知り合いか?」 「しりあい、っつーかなぁ・・・」 周囲には聞こえない程度の音量でした俺の問いに、この男相手としては耳を疑うほど歯切れの悪い答えが返ってくる。 ただその後で、明らかな独り言の声で「勘弁しろよ」という、これまた珍しい嘆きが聞こえたのは意外だったに他ならず。 「つーか何でこんなとこにいるんだ?!お前等」 放課後。 日直として偶々通りかかった社会準備室から、殆ど悲鳴じみた声が聞こえてきた。 間違えようもない。小林の声だ。 「いや、それが先代がとりあえず社会研修で、と勝手に設定して・・・」 「教育実習をか?」 「は、い。自分が<神>としてみる、その世界を間近でよく見て来い・・・って・・・」 だんだんとその語尾が小さくなりながらも、なんだかとんでもないことを言っている気がする声の主は明らかにあの気の弱そうな方の実習生だ。 ・・・・・・・っていうか。神? 「んでー?犬丸の方はわかったけど、なんでそれにあんたがくっついてくんのよ、佐野」 また、新しい少女の声。 見当は簡単についた。小林のクラスの森だろう。 「佐野って俺達のふたつ上だよな?」 ・・・・・・・・これだけ揃ってればむしろいない方が驚くほど当たり前なことだが、今度は植木の声だ。 ・・・・・・・っていうか、ちょっとまて。 植木と森は2−Cだ。 そのふたつ上・・・っつーのは・・・ (高1?!) どう考えても、飛び級やったって「教育実習生」をやる世代ではない。 いや、なんかそんな漫画はあるらしいけどそれはあくまで漫画の話で。 しかしどうやら知り合いらしいそれらの常識的な意見に、佐野の大阪弁はさも当然にこうと答えてきた。 「そんなん。オレはワンコのためやったら休学やら年齢詐称やらに抵抗はまったくあらへん」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ワンコ、というのはあの実習生だろう。 あぁなるほど。犬丸、でワンコか。 ・・・・・・・確かに示す印象はわかりやすい。 どう考えても年下の使う愛称じゃない気もするが・・・ 「胸張ってそんなこと言い切るなー!!」 こちらがとらわれた考えのせいで作ってしまった隙に飛び込んできた森の大絶叫にビックリし、がたん、と足元にあるものを蹴ってしまう。 消火栓だ。 「げ」 「誰だ?!」 驚くほど鋭い子供の声。 こんな声、植木が出せるのかと驚く前にがらり、と扉が空いた。 「タクセン?」 きょとん、とした、さっきの声とは全く違う警戒心のない声。 本当に同じ人間かと、一瞬疑う程。 「あー。よぉ。鍵を見にきたんだが」 対して自分も、些か間の抜けた言葉でお茶を濁していた。 「あー。わりぃ。聞いたか?」 植木の後ろから小林の姿が見える。 明らかに困っているのと楽しんでいるの半分半分。 そういう表情がよくわかる。 いや、たのしんじゃぁいけないんじゃないか?とはつくづく思うのだが・・・ 「いや。聞かなかったこと・・・にした方がいいんだろう?」 「あぁ、そゆことだ。すまん」 肩を竦めて苦笑いすると、横にてこてこと森が歩いてきた。 「ごめんね、タクセン。」 なんでお前が謝るんだ?と肩を叩いてきた森に目で問うが、説明はなかった。 あーもう。それいわれてそれ以上なにかきけるわけもないしな。 「・・・・・・ここの戸締り任せるぞ、小林」 「了解」 「あと俺は帰るからな。あとの仕事しとけよ」 「へーへー」 返事の気はからっきしなさそうだが、まぁやらないことはあるまい。 そのあたりは勝手に確信をすることにしてしまい、自分はやることをやると心に決めた。 「それと、実習生」 「は、はいっ」 「なんや?えと、赤野センセ」 奇怪な素性をばれたと自覚しているのかしていないのか。 返ってくる言葉は思いのほか肝が据わっていて、あーもぉいいかとそんなことすら思うのは、果たしていいことではあるまいが。 「実習担当の教員が今日のレポート出せって喚いてたぞ。形だけたぁいえだからこそ真面目にやれよ」 「わかりました。・・・すいません」 「ありがとな、せんせ。いーひとやん」 「うれしくねぇ」 つい、本音が出た。 単純にかかわりたくないだけだと、多分こいつらだってわかっているだろうにと思うと、つくづくだ。 「うん。だから最後の戸締りコバセンに任せて、タクセンはダンドーに癒されに帰っていいと思うぞ」 まとめるつもりなのかそれとも別の意図があるのか。 にこにこと植木がそんなことを行ってくる。 「・・・・・・・お心遣い心から感謝するよ、植木」 いろんな理由から心の汗が涙から出そうで、自分にできるのは冗談めかしてそうと切り返すことぐらいなわけで。 |
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