OUT SIDE EPI. pre-side
 1:邂逅(不壊三出会い編)

※これはうえき×ばけぎゃ×だんどの3コラボパラです。
 ちなみに うえきサイドは神の代理人仕様の教師×教え子
 ばけぎゃ組は 神父(でも実は教会に封じられた妖)×怪盗っこの完全パラ
 だんどチームはふつー?に 超有名プロゴルファー×キャディ兼ゴルファー
 
 これでコラボります。
 さぁついてイケないと思った方は早速ぷらうざばっくぷりーず。
 一応BBS連載していたものを補足したり追加したり誤字脱字直ししたり
 色々矛盾フォローなどして纏めているものなのでご容赦。
 



















 00

「力を貸してくれないかい?」
「ちから?」
「あぁ。あの、涙を止めてやる、力を」
「あぁ。いいぞ」
「・・・・・」
「俺、不壊の手伝い、してやるから!」


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 01

神様はちゃんと観ているよ。
正しいことをしている人
許されないことをしてる人

その街の教会は、ちょっとした森の奥にひっそりと立っている。
森と言っても光が一杯入るように周囲は手入れをされているし、すぐ近くには泉もある。
まるで童話や物語の世界のような中に、その世界にぴったりのこじんまりとしたチャペル。
それらは知らなければ気がつかないような、小さなものだ。

そう。
まるで、本当に必要だと訪れる人を静かに待っているかのように。
ともすれば。
踏み入れられることを、かたくなに拒んでいるかのように。

「・・・・・・・・・」

少年はうつむいていた顔を上げた。
呼ばれた気がしたからだ。
けれどそこには人の気配はなく、帰り道のはずなのに、いままで気がつかなかった、綺麗な「森」が広がっていた。
かさかさと風に揺れる音と、きらきらと光る緑がまぶしい。
そこに妙な懐かしさを覚えて、彼はその足を緑の中に向けた。

最初は影だと想った。
そこにいたのは、ちいさくてかわいらしいチャペルの壁には不釣合いな黒だったから。
けれどそれが人の姿、それも教会には当然いるべき神職の人だと気づいて、なんだか自分の失礼な発想に罪悪感を抱いた。

「神父さん?」
「他の何にみえるかね?」

呟いた言葉に、皮肉というより、おかしそうにその人は切り替えしてくる。
長い銀の髪がかすかに揺れて、風に一房、もてあそばれるのがどこか不思議に見えてしまう。

「あ。ごめ・・・」
「どうしたぃ?」

普段の友人たちが見たら耳を疑うほど気の弱い少年の声に、神職の男はそっと問いかけた。
優しいわけではないその口ぶりに、しかし酷い安堵感が少年を満たす。
大好きな人に似ていた。
そして自分が今抱え込んでいるのは、その大好きな人に話せないこと。
代わりにしてしまうのは失礼なのかもしれない。けれど。
あぁ、このひとなら。
あの人にも話せないことを、言っても大丈夫じゃないかと何故か信じられた。

「たく、さんの・・・」
「あ?」
「拓さんの、ボールが・・・」

光に目がしみる。
そんな言い訳が、今なら出来る気がした。

「拓さんのボールが、とられちゃったとよ・・・」

顔を上げた少年の目から、言い訳を得た涙がぽろぽろと零れおちていった。


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 02


「盛り上がってるな」
「うん。すごい好カードだもの」

イベントにはテンションの下がる担任に、素直にテンションの上がるタイプの少女は目線も反らさず、熱っぽく応える。
実際体育館は彼女のみならず、すごい熱気だ。
それらの中心には、ひとつのバスケコートがある。

「植木と・・・ありゃ一年か?」
「うん」

学年不問のトーナメント球技大会は、本来なら圧倒的に3年生のひのき舞台が常だったが、このバスケセクションに限り、例外であったらしい。
いや、もっと言うのなら、その中でもその二つのチームというべきか。

「いっけぇえさんしろー!」
「まけんなうえきぃ」

熱くなった応援席の声が、彼らには届いているのか。
丁度中央あたりで攻防を繰り広げている二人の少年はしかし、その高レベルの姿に仲間であるほかのメンバーまでついていけなくて遠巻きに視ているという状況だった。

「誰かパスとりいけよ。バスケなんだから」

ぼそり。各所を回ってきていた、片方のチームである2−C担任である小林はあきれたように呟いた。
当然の意見だったが、どうかしらね、とクラスの裏番とも名高い彼女の、切り返す言葉はそっけない。

「あん?」
「視てればわかるわ」
「・・・・・」

不意に。
小林のクラスの男子・・・鮮やかにボールを操っていた植木が動いた。
彼の前に立ちふさがっていた、一回りほど身長の低いさんしろうと応援席から呼ばれていた少年の隙をついて、その足元にバウンドのタイミングを当ててボールをパスしたのだ。
完璧なタイミングだった。
抜ける、と誰もが想った瞬間、少年が動く。

「あ」
「・・・・・・・・・をい」

確かに彼は動いたが、殆ど咄嗟のコトだったのだろう。
彼はそのボールを蹴り上げていた。
しかもそのボールは完璧なコントロールを持って、彼の狙っていたゴールの環をあっさりと通過してしまう。
確かにすごい光景ではあったが、もちろん、ファールである。
間の抜けた声に、流石の植木も、応援していた連中からもあきれたため息が漏れた。

「つい」
「駄目だろ、それじゃ」
「うん」

そーなんだけど。
けっして悪気が無かったわけではない崩れた笑顔で少年は笑った。
ごめん、という声に、会場中がどっと笑いに包まれる。

「・・・・・・なんだ、ありゃ」

あきれた小林の声が状況を如実に物語っていたが、その声も決して怒りや不快は無かった。
気を取り直して再び再開された試合に、小林もまた魅入られたように目線を投げてしまう。
普段スポーツなどみる気も起きない小林ですら魅入らせるソレは、後に伝説の試合と呼ばれることになるのだった。

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 03

「つよいな、お前」
「センパイこそ」

蛇口を目一杯に開けて、頭から水を被りながら、彼らはお互いを賞賛しあった。
びしょびしょと濡れた髪はけれど初秋の風に気持ちがよい。

「久しぶりだった」
「?」

ぽつり、と投げられた言葉は、かすかに歪んでいる。
不思議にかしげた視線に、植木はちょっとだけ笑う。

「俺と渡り合えるのなんて、コバセンぐらいだと想ってたからな。なんか新鮮だ」
「こばせん?」

聞きなれない単語は人の名前らしからぬものだった。
目の前の後輩がますます首をかしげると、あぁ、と相手は自分の当たり前が本来そうではないことを思い出す。

「一年はいってないか?社会のコバヤシセンセイ」
「んー俺のとこ社会は違うなぁ」

じゃぁ今度みつけておいてみろよ、と植木がいうと、多聞、という名前が体育着からみてとれる後輩はうん、と楽しそうに笑ったところで、人をゲームのレアキャラみたいにいうんじゃねぇ、と後ろから声がした。

「コバセン」

足音も立てずに来た人間に、植木は嬉しそうにその名を呼んだ。
対し、その様に驚いたのか、多聞は絶句した様子で振り返る。
まるで聞いた覚えのある、それも決して友好的な意味合いはなく、だ・・・相手に呼ばれたかのように。

「え?せんせ?」
「・・・・・んなに驚くほど俺は教師っぽくねぇかね?」

驚きを隠せない多聞の言葉に、皮肉気に小林は肩をすくめた。
つりあがった口元は、本人の言葉そのままに、とても教師のそれには見えない。

「いや、なんか同じ公務員でも・・・刑事とか、そっちの方がにあってるかな、って」

すいません、と少年は素直に頭を下げた。
勝手に想像していた言い方に謝ったらしいのだが、ソレを聞いて植木が噴出す。

「おまえやっぱりすごいな」
「え?」
「すごい」

くすくすと笑いながら先輩の植木は、濡れた髪のままその「とても教師には見えない」男に近寄った。

「視てたか?」
「試合か?あぁ。丁度クライマックスをな」

担任相手とは思えない口調を、されている方もあまり気にしていない様子はどこか不思議だったが、少年にはソレが当たり前にも見えてすこしうらやましかった。
自分と「彼」では、こんな風に「お似合い」にはならない。
せいぜい、保護者と比護者で・・・

「なぁ」
「え?」
「名前。聞いていいか?俺は植木耕助」
「知ってる。この前の陸上記録会で、日本記録だしたって・・・」

それはそれは大騒ぎになったのだ。
本人はどこ吹く風、そのままだったようだが・・・・

「で?」
「う?」
「お前は?」

にっ、と屈託なく笑う植木に、多聞は慌てて名乗った。
お高く留まってるとかそんな風に言われている人だったが、そんな風に言われているのが信じられないぐらい、強くて優しい笑みで、多聞は名前を聞かれたことが嬉しかった。

「い、1−Bの多聞、多聞三志郎っ」
「さんしろ、か」

お前、いい勘してるぞ。
すっかりのぼせ上がった多聞に、しかし飄々としたセンパイ殿は謎かけのような言葉を投げて、先生と連れ立っていってしまった。

「かん、て」

だが残された多聞には、その言葉を否定しなければならない事実があった。

でもじゃぁ、あれか?やっぱあの「先生」って・・・
勿論、それを伝えるわけにはいかないのだが・・・

「なんで?」

見覚えのあるってのは、間違えじゃないってことか?
不安そうに呟いたその理由を唯一話せる相手のところに、ごちゃごちゃ考えることが苦手な多聞は、とりあえず、すぐにいこうってそう決めた。


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 04

「不壊!」

チャペルに幼い声が響く。
弾んだ息が、三志郎が走ってきたことを物語っていた。
だがいつもの目線とはもうひとつ、別のソレを受けて彼は戸惑ってしまう。
珍しいことではないけれど、いつもの涼しげな目線とは別に向かってきたそれは、涙に濡れていたからだ。

「あ、ごめっ・・・」
「こっちこそ!じゃ、おれ帰りますからっ」

慌ててその涙をぬぐい、その目の持ち主が、三志郎が呼んだ相手へと頭を下げ、彼の脇をすり抜ける。
ふと。鼻が緑のにおいをかぎつけた。

さほど大きくない扉の閉まる音の中、逃げるように帰った少年と向かい合わせに座っていたこの教会の、真の意味での主が、とてもその役職には似合わない不敵な笑みで、何事も無かったかのように三志郎を呼んだ。

「よぅ。兄ちゃん」
「・・・・今の」
「あぁ」

会話らしからぬやりとりのあと、しかし互いに意図するところを悟ったように、三志郎はさっきまで見知らぬ少年が泣いていた席まで向かった。
座ると、さっきまで見下げる形だったその人を見上げる形に変わる。
だがこちらの方が日常で、三志郎は安心した。

「仕事?」
「そうだな」
「なにを、とられたんだ?あいつ」
「さて。その前に」

恋人としての挨拶はなしかい?
神の恋人であり愛人であり僕であり友であるはずの神父姿で、そんなことをいう男は、けれど三志郎にとって偽りの無い確かな「恋人」だった。

「わがまま」
「なんとでも」

だからその我侭だって、こっちから視れば嬉しいもので。
ただいま代わりのキスも、自分がやりたいからに他ならず。


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 05

「お前と対等にやりあう人間がしかもガキにいたたぁな」

この部屋にベットは無い。
転がった布団はふたりには少し狭いけれど、彼らにしてみればひっつく理由が多いことに越したことは無い。
その会話が、たとえそこでするにしてはいくらか色気が無いものだとしても。

「めずらし。コバセンが褒めるなんて」
「そりゃぁ、な。俺だって感心したものに対しては尊敬を口にするさ」
「ふうん」

植木は何の気なさそうな口調で、恋人を兼ねる教師の言葉を聴いた。
くすり、とその様に大人が笑う。

「なんだ?妬いたか?」
「なんで?」
「それを真顔で返すんだもんな」

計算せずに、大人のほしがっている言葉を子供は蹴ってしまうのだけれど、そこにはちゃんと理由がある。

「俺は、コバセンが好きだ」
「知ってる」
「でも好きなコバセンは、自分に正直なとこなんだ」
「うん?」
「だから。俺に気を使うコバセンなんて、気持ち悪いな、と」
「お前なぁ・・・」

すり、と。
その人の胸元に擦り寄りながら飾らない本音を口にする。
けれど口にする言葉は、全部が全部、本当なのも事実。

「だから」
「・・・・・・・」
「もしコバセンがとられても、俺は自分で取り戻す」
「うえ・・・」
「あいつなんか頼らないぞ?」

強い目で引き合いに出されたのは、この「街」で有名な存在のコトだろう。
神様の変わりに。
人の祈りを聞き届ける、本当にいる伝説。
小林が。
教師とは違う顔で追っている相手。

「人間、みんながみんなお前みたいに強くはねぇんだがな」
「・・・・・・・俺だって。強くない」
「馬鹿いえ。最強だろ」
「・・・・弱いよ」

弱いんだ、と彼がいう言葉はかつての重さ。
無力だと嘆いたことが、この少年には何度もあった。
けれどその無力を克服した強さを、小林は知っている。
弱いと自覚した存在の強さを、ちゃんと認めている上で、人を語る。

「だが。普通の奴はもっと弱いんだ。だから・・・奇跡に頼る」
「・・・・・・・・・」
「だがその奇跡の為に、誰かが犠牲になるこたねぇ」
「・・・・・・・・・うん」

謎めいた言葉は、けれど彼らの間では明確に届く。
そこにあるのが、犠牲と呼んだ相手と、同じベクトルを持っていることを知るものは少ない。
だが、それが真実。

「だから。俺はあいつを追っかける」
「わかってる・・・なぁ?コバセン」
「あ?」
「じゃぁ、コバセンに人よりちょっとは強いって言ってもらったお墨付きを楯にして、いっこ頼んでいいか?」
「・・・・・・・・・・うん?」

ふ、っと。
植木が笑った。
彼らしくなくて、同時にとても彼らしく。

「俺にも、あいつを捕まえる手伝いさせてくれ」
「植木・・・」
「やだとは。いわせねぇからな?」

にっ、と。屈託なくこぼれた笑みの強さは、勿論小林が一生勝てないととっくにあきらめたもので。


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 06

ごめんなさいと子供が泣いた。
咽喉をひくつかせながら何度も、何度も。
赤野はそっと細いその身体を抱き寄せて、背中をさすってやった。まるで赤ん坊をあやすように。
壊れないように、自分が出来る精一杯に優しく。
腕の中で泣きじゃくる子供は暖かい。
いつもの暖かさだ。
なのに今見せているのは、赤野が大好きな笑顔ではないのだ。
そのことが酷く、赤野を悲しくさせた。

「ダンドー?」
「ごめ、たくさっ、ごめんなさっぃ」

問うつもりもこめて呼んだ名は、けれど結局全てが形になる前にしゃくりあげられた。
ぽろぽろと零れる涙が綺麗で、切なく赤野のシャツをぬらしていく。

「お前が俺に謝ることがあるとしたら」
「・・・・・」
「それはお前が俺のコトを嫌いになったときだと想ってるんだが、そう考えていいか?」

ため息のような呟きに、腕の中の子供は必死で首を振った。横に。
そんなわけないと、赤野もわかっている。
ただそうでも言ってやらないと、この子供は話してくれない。それも理解していた。

「拓さん」
「ん?」

けれど。
その、子供が続けたのはこんな言葉だった。

「神様は、いると思う?」
「え?」

泣き腫らした目と、少しかれた声で子供は聞いてくる。
その問いが不思議すぎて、赤野は戸惑う。
けれど子供は真剣で。

「拓さんは、本当に困ってくれる人を助けてくれる神様が、いると想う?」
「そうだな」

ふ、と。
思い出すのは、この綺麗な魂との出会い。
神が起こせる奇跡だとしたら。
きっとそれこそがそうなのだろうな、と。そう想う。

「神様なら・・・お前みたいな天使の為なら、なんでもやってくれるだろうな」

自分で口にした言葉が恥ずかしくて、赤野は言ったままその子供を、さっきまでのあやすための抱擁ではなく、愛しさをこめて腕に閉じ込めてしまう。
聞き返させないためと、それから。
恥ずかしくてたまらない、この赤い顔を隠すために。


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 06

三志郎は神様を信じていない。
多分、この「神父」も信じていないんじゃないだろうか?
そんな気がしている。
大体、本当に信じているのなら、こんな風に。
自分で動いたりしないはずだ。

「ボール?」
「あぁ。ゴルフボールだ」

ひそやかに。
ともすれば、罠を仕掛けるように。
もしかしたら、悪戯を相談するように。
神聖なる建物の一角で、まるで隠れるように言葉を交わされる。
背中から抱きとめられて、耳元に言葉を、ひとつひとつおくように神父からの言葉を三志郎は耳に、心に並べていく。

「ただのゴルフボールなのか?」
「そうだな。ゴルフには興味の無い兄ちゃんには<ただ>のゴルフボールだな」
「?」
「だが、さっきの子供にはちがう。
自分がキャディを勤め上げたプロゴルファーから直接もらった特別なボールだったんだと」
「キャディってなんだ?」

知らない言葉に首をかしげると、くく、と大人の笑い。
ぶぅ、と膨れると、まぁ気にするな、と無責任な言葉。

「あぁ。ゴルファーの補佐・・・とは言われているがな。
実際にこのキャディが勝敗を決めるとも言われているそうだな」
「へぇ。すごいんだな」
「あぁ。だが」
「うん」
「がんばったご褒美は、取られたってことだ」

ため息のように告げられた言葉に、三志郎は自分を抱きとめる腕の中で身体をすくませる。
体温の低いその中は居心地がいいはずなのに、嫌な言葉に顔をしかめる。

「誰に?」

不機嫌に、三志郎は呟いた。
ソレに対して、不壊はくく、と咽喉を鳴らした。
まるで、予定通りといわんばかりに。

「趣味の悪い・・・ いや。そういう意味では趣味がいいのか?いわゆるコレクターって奴に、だ」
「・・・・・・・おれ、そいつら嫌い」
「知ってる」

子供の口調で、子供がいう。
子供だって知っているはずの、当たり前が出来ない大人に。

「大切にしているひとつを、自慢の為のいっぱいの為に勝手に取って」
「あぁ」
「・・・・・・・・だから。泣いてたんだな。あいつ」
「そうだな」

思い出した光景に、三志郎は切なげに目を細めた。
同時に零れた声は悔しさと、それからなにかの決意を抱いていた。

「だから」
「だから?」
「どうにか。俺たちがしてあげよう?不壊」


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 07

「植木。飯」
「おぅ」

このクラスでは日常のやり取りがそこにはあった。
担任教師が命令口調で一言言って、名指しされた生徒の一人が当たり前のように頷いて。
既に珍しくもなんとも無いその光景を、クラスメイツは、とりあえずなんにも聞こえない顔をする。
一人だけ、その限りではない人間もいたが、その彼女にしても最近はいい加減馬鹿馬鹿しくて、天才的だったツッコミも最近はすっかりやめてしまった。
つまり、とめるもののいない無法地帯。

「今日はな、卵焼きがうまくできたんだ」
「甘いか?」
「うん。勿論」

「ねぇ。これ公害だって言って刺しても同情してもらえると想うの」
「まて、森。法律はお前が言うほど甘くはない」
「っていうか頷きたくなるような誘惑を言うなよ・・・」

どう見てもらぶらぶかっぷる(実際クラス公認)のこの二人は、しかし直後、そんな和やか?な雰囲気を一蹴させられることになるのだ。
奇妙な、ともすれば間の抜けた音と一緒に。

「?!」
「なんだぁ?」

それは軽い爆発音。
それからあけた弁当箱には場違いな、細かいクラッカーの中身のような、それらの舞い。

「い?」
「おれのべんとー?!」

きょとんとした植木と、絶叫した小林。
そして、微妙に植木の作ってきたものとは違うものが並んでいる、それでも上手な手作り弁当と・・・

「予告状?」

実はソレ、初めて視たものではなかった。
だから小林は眉をひそめてそっと手に取る。
だがその隅で、明らかに怒っているとわかる恋人を、直視できないのをごまかしているようにも、望まず付き合いの深いクラスメイトには見えた。

「・・・・コバセン」
「お?」

そこに書かれた文字を追う小林にかかった、植木の声は心底らしくない低さを持っていた。
ちょっと軽口は、受け付けないぐらい。

「昨日の、前言撤回だ」
「あ?あぁ。参戦するって奴か?」
「おぅ」
「で?」
「今回のミッション。俺が出る」
「・・・・・・・・おぅ?」
「コバセンはサポート、な?」

ついでに拒否もなにも、許さないっていう調子におそらく、怖いものを覚えたのはクラス全員、間違っていないのは確かな話。

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 08

「あ。センパイ」

放課後。三志郎は見かけた先輩の姿に思わず駆け寄った。
ふわ、っと優しい、けれどどこか作った笑顔で相手も彼を迎える。

「あぁ。さんしろ、だったか」
「どーしたんです?なんか不機嫌な気がする」

視たままの感情を口にすると、その人の表情は困ったように歪んだ。
頭を掻いて、ほんの少し目をそらす。

「わかるか?」
「そりゃ」
「弁当がな」

理由らしき続いた言葉だったが、あまりにずれている気がする言葉に三志郎はきょとんとした。
いや。
正直、少しだけ、予想がついていたことでもあるのだけれど・・・

「え?」
「弁当がすりかわってたんだ」
「・・・は、はぁ・・」

実は、知っている。
すり替えたのは三志郎だから。
因みに変えてしまった方は自分がおいしく頂いた。

「コバセンに作ってった弁当なのに」
「う・・・」
「だから、捕まえることにしたんだ」
「は?」
「今までは、コバセンの仕事だったから首は突っ込まなかったんだ。
俺も、ちょっと賛成してたところあるし。
けど、俺の弁当すり替えたからには許せねぇ」
「えーと・・・?」

決意をした目でしゃべっているこの人は、多分三志郎を視ていない気がする。
けれどしゃべる言葉ははっきり宣言に変わった。

「<聖なる烏(セイント・クロウ)>は俺がとっつかまえる」
「えぇええええ?!」



「ど、どどどどぉしよーふえー」
「どーしたよ、兄ちゃん。電話なんて珍しい」
「だってどーしていーかわかんねぇんだもんっ」
「あぁ?」
「あぁああなんて言っていいかもわかんねぇんだけど、とりあえず俺たち追っかけてる刑事さんいただろ?銀髪のめがねの」
「あぁ。いるな。ひとり単独行動で動くのが」
「それがうちのがっこのせんせだったんだけどな」
「は?」
「そのせんせのクラスメイトのセンパイも、俺たちの子と追っかけるって意気込んでるんだっ」
「・・・・・すまんが兄ちゃん。もうちょっとわかりやすい説明ってのはないかい?」
「俺もなに言っていーのかよくわかんねぇええ〜
ぁあああどーしよーっ、すっげぇいい先輩なんだっ
せっかく仲良くなれるとおもったのにー」
「・・・じゃぁせいぜい、つかまらねぇようにがんばらねぇとな?」
「っ」
「どうしたい?兄ちゃん」
「不壊」
「うん?」
「そうだな。ありがと。
俺はこの<仕事>に誇りを持ってるつもりだ」
「あぁ」
「だから、やりとげる。犯罪だっていう人もいるかもしれない。けれど、正しいやり方ばかりが人を救うとは限らないって、よく知ってる」
「そうだな」
「だから」
「ん?」
「ちゃんと護れよな?」
「勿論」

===================


 09

「っつーわけで今回から植木も正式参戦な」
「嫌がってたじゃないですか。なんでいきなり」
「愛が」
「あい?」
「愛が邪魔されたからだ」
「森さんが?」
「違う。弁当」
「・・・・・・・あの?」
「わからんでいいっつーの。ワンコ、そんなわけで上層部には話つけとけよ」
「それはいいんですが・・・」
「大丈夫だ。連中、人を傷つけたりはしねぇよ」
「・・・えぇ」
「仮にもお前の名を騙ってるんだ。
そんなことしてみろ・・・ガキだからって見逃してやるか」
「・・・・って。見逃してたんですか?!」
「あ」
「あ、じゃありませぇええんんっ!
なんで貴方はそうなんですかっ
僕がちゃんと、正式な依頼で、その街に出現する、神の名を騙る怪盗を、捕まえてください、という命令を、一応とはいえ本物の神として、くだしたんですよ!」
「知ってるよ」
「じゃぁなんでっ」
「笑うんだよ」
「え?」
「連中が盗むものは、大概がだまされたり強引に奪われたものだ。
それをあいつらは、本来の持ち主に返す」
「・・・・・・はい」
「絶望が希望に変わったときの人間てな。
そりゃ・・・幸せそうに笑うんだよ」
「・・・・・・・・それでも」
「わかってる。罪だ」
「優しい罪です。だから僕は止めたい」
「・・・・・・・・」
「そんな罪が重なる人を放っておきたくない。
それこそ・・・無力だとわかっていても、神として」
「お前な。神様の癖にんな控えめでどーするよ」
「あなたが<烏>をとっ捕まえてくれたらもうちょっと図太く振舞います!」
「そりゃ、いいこと聞いた」
「え?」
「植木が気合をいれてるからな」
「っ・・・じゃぁ、いい返事を待っています、から」
「りょーかい」
「期待して待ってろ。弁当の罪は重いぞっ」
「・・・・・お願いします」

============


 10

夜の帳に包まれた森は、昼の雰囲気とは全く異なる顔を見せる。
光も入り込めない闇の中、しかし三志郎の足は戸惑わないままかけていった。
漣のように、耳に人とも獣ともつかない囁き声が耳を打つが、あくまでもそれは彼には日常なので、そのままチャペルへと飛び込んでいく。
昼間は女の子の憧れそうなそのつくりでも、夜となるとそこもまた監獄のように見える。
いや。
監獄なのだと、三志郎だけが知っていた。

「不壊」

自分らしからぬほど甘ったるく。
どうして、緊張して当然の状況で、怖くて当たり前で、自分は笑えているのだろう?
三志郎はいつもこの瞬間に首をかしげる。
けれどとまらない。
罠の様に用意された運命と思えるこの高揚感に、身を任せると、そのことは自分で選んだ以上。

「にいちゃん」

銀の髪が美しく、ステンドグラスに彩られた月の光を反射する。
黒い神父服に包まれたからだが、ともすれば闇に融けてしまいそうだと想うのは、不安か、それとも。
真実を知っているからか。

「不壊、いこう」

そっと。
こみ上げてくる感情を飲み込んで、三志郎はそっと手を伸ばした。
ばさり。
少年の言葉を、まるでキーワードに。

つばさのひらくおとがかんごくのやしろにひびきわたる。

気高き闇の住人を、括りつけたこのチャペルに。
そして神を信じるものの姿を持つ、神と相反する異形は少年の翼へと成る。

月の光より尚まばゆい。
誇り高きこわれずの翼。
その姿、まさに「聖なる烏」こそ相応しき。

「いこう。ふえ」

もう一度。
囁いた少年の声に伴われ、銀の翼は静かに羽ばたいた。

============

 11

うえきは、ちょっとだけ小林が、自分を現場につれてきたくない顔をした理由を悟った。
予告された「それ」にすがる、醜い大人の姿を見たからだ。

その人物はどこぞの会社の偉い人間だというのに、ガラスキューブ越しに手にしたゴルフボールを熱っぽくなで繰り回してにやにやし、それがいかにすごいものだということかを周囲の空気も省みずに延々と語った。
うえき個人にはただのボールだが、そのうえきが知らない何人かの「警察」の人たちに動揺のようなものが走ったから、それなりに有名なのかもしれないと恋人である人に問いかけると、あぁと思い出したような説明がふってくる。

「日本人初の3年連続賞金王の、最初の年の最初の大会のウィニングボールってんだからな。
だが俺がどっかの雑誌で見たのは、たしかそいつはそん時のキャディに渡したってコメントが・・・」
「あんなガキにこのボールの本当の価値がわかってたまるか」

小林の言葉に男が吐き捨てるように言うのに、植木は正直ぞっとした。よくわからないが、気持ち悪いものが咽喉の奥からこみ上げてくる。
それを察したかのように小林が「では警備に戻りますから」と慇懃無礼に告げて、さらり、と植木を隠してしまいながら踵を返した。
それにつられるように歩き出した彼に、吐き捨てるような恋人の声が届く。

「お前が言うな」

怒ってる。
めずらしいものにぽかんとしていると、相手ははたと自分の表情を思い出したようにして苦い笑い顔を恋人に向けてきた。

「わりぃ」
「コバセンはわるいこと、してないだろ?」
「いや。不快を見せちまったな」

自分の不機嫌を、植木が相手だということで見せてしまった。
そのことに謝ったのだが、子供は揺るがない。

「俺が選んだことだ」
「・・・・あぁ。だが。この仕事は、植木。
・・・矛盾している正義を貫くことになるぞ」
「うん?」

豪奢な屋敷には、さっきから、不愉快になるような変なにおいがしているような気がする。
鼻ではなく、もっと奥がムカムカするのだ。
その中を横切りながら、植木は小林の言葉に耳を傾ける。
躊躇わないまま。

「ちょっと調べたところ、さっきのボールな」
「うん」
「些か無理矢理、例のキャディからパクったらしいんだな。これが」
「だから、予告状がきたんだろ?」
「まぁ」

そういうことだが。
だが小林が言い渋ることは、誰もが知っていることだ。
あの「烏」は決して私欲では飛ばない。
涙にその翼を輝かせて、初めて夜の空を踊るのだから。

「なら。簡単だ」
「簡単?」

どういう意味だ、それは。
小林が目を問いかけると、子供は笑った。
ちょっと思い出したくないクラスのお嬢さんを思い出した気がして、小林は豪奢な天井を物悲しい気分で眺めた。


=============


 12

夜に、踊る、銀の、翼。

それは静かに羽ばたき、幼い身体を藍の空へと躍らせる。
まるで夜の帳の裾で、ステップを踏むように、軽やかに。

「聖なる烏」。
不正当に奪われた「思い」の結晶を、持ち主に返すという役割を自ら追った、神の使い。
優しい罪人。
その姿が、まだ幼さを残す少年と森の奥に封じられた妖の作り出した幻の如き姿だとはまだ誰も知らない。

「不壊」
「ん?なんだい?兄ちゃん」
「がんばろうな」
「・・・・」
「がんばろう。神様の変わりに」
「あぁ」

けれど彼らはしらない。
その罪を止めたいと想っている、やさしい神様がいることを。

そしてその神様の願いを聞き届け、ここに二人の天使が今は大地に足をつけて天を見上げていた。
不敵な笑みと、決意の目。
そしてなにより、その視線の先には銀の影を捉えて。

「いくぞ。コバセン」
「おおよ」

短い会話。
そして形を成す、宣言。

「「花鳥風月」」

鮮やかな光が、彼らの背中をまばゆく濡らす。
自らの力で天を舞うことを許された彼らは、その光を羽ばたかせ、大地から別離する。

優しい罪人と対峙するために。
藍の天に。
3対の、輝きが踊る。
戯れではなく、明確な意思で。

「って?!えぇええ?!」
「・・・・・・・てんかい、じん・・・」

とまどって上げられた声に、迎えた側の少年・・・植木は首をかしげた。
聞き覚えがある気がした声だった。
それともうひとつ。
目の前には「ひとり」のはずなのに、もうひとつの声も聞こえてきた。
それも、「自分たち」の存在名を示す、のは・・・

「よぉ」

その混乱をさも面白がるように、傍らの男の声。

「今回ばかりは、わりぃが見逃してやれんくなった」

うらむなよ、と。そう、宣言する声は、だがいつものようにどこか冗談めいている。

「お前らのショウタイムは・・・今夜限りだ!」

そして。
時間が。物語が。
今ここで・・・動きだす。

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