「こんにちわ。
えーと、いつものことなんですが」
「そのいつものパラレル案内だ。
っていうか今回は無茶苦茶だな」
「んーと、今回のストーリーベースは多分「電脳コイル」」
「が、そこから貰っている設定は「電脳空間が見えるめがね」の普及した世界。・・・・・ぶっちゃけそれだけだな」
「・・・・・れっつアバウト、ね・・・」
「いつものことだろ。
あ、それからこれは一応、メインは拓弾だそうだ」
「え、そなの?」
「らしーな。一応3パラになるだけだが」




   ―Electronic Fairy Tale  ;1/2―


 

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「あ、れ?」

彼。植木は目を疑った。
正確には、自分がかけた、そのめがねを疑った。
ためしに外してみる。
それから目をしばたかせてみた。
そこには「いつもの」見慣れた、教師の姿。

「あれ?」

もう一度呟いて、その声になんだ?と首をかしげた教師の前、もう一度メガネをかけてみた。
やっぱり、ある。

「コバセンに・・・はね・・・?」

ライトブルーの、ツバサがその人の背中からきらきらと、とても綺麗に長くのびていた。



皆が当たり前に持ってた、メガネを、オヤジからお下がりだ、と手に入れたその日。

「ただの、不壊だ」

その「人」に出会った。
同じメガネのはずなのに、他の奴らには見えないそいつは、案内人だと言って笑っているようには見えない笑みで笑った。
電脳空間で始まる、げぇむのために、俺を探していたのだとそう言って。
俺、じゃなくって、多分、このメガネを使っている人間を待っていたんだろう?ってそう思ったけれど。
目の前に横たわる「冒険」の、においと気配に。
俺は・・・その、確かに感触のある手をとった。



「拓さん・・・」
「ダンドー」
「拓さん。めがね、外して?
もう、もういいから・・・」
「俺にそれをいうのか?」
「・・・・・・・・だ、って・・・」
「お前がいるのは、もうここにしかないのに」
「そんな、こと・・・」
「ダンドー」
「ねぇ?拓さ・・」
「大丈夫。そんな不安、俺がなくしてやるから」
「・・・・・・・・え?」


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 phase;01


「どうして大人って、こんなに面白くて便利なもの、あまり使わないのかな?」
「面白くて便利だからじゃないの?」



「なぁ、コバセン」
「あー?」
「なんで羽が生えてるの?」
「さてなぁ?」

お前のめがね、壊れてるんじゃねぇの?
本当に不思議でそう聞いたのに、返って来た言葉と言えばそれだけだった。
そういっているコバセンの背中で、俺には見える、眼鏡越しの電脳世界にははっきりとしたライトブルーが、こちらをからかうように時々羽ばたく。

「壊れてるなら、治せるか?」

他の人は、同じはずのめがねをかけても見えないのだという、コバセンの羽を見つめながら、そうと聞いた。
本音ではなかったのだけれど、コバセンはさも問題のないことのように、切り替えしてきた。

「治すか?」
「え?」
「治せるやつ、しってるけど」

治すか?
もう一度。
手を伸ばして触れられる、温度のない光の塊を、指先に、電脳越しに感じている俺に、コバセンがいう。

いい。もったいないから。

咄嗟に、俺はそういってコバセンの申し出を否定して首を振った。
こんな故障なら、治したくなかった。


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 phase;02


再構築。
めがねが開発されるに当たって、一番最初に付加された機能が、それだと言う話(噂)。



「あ。」

まどろんでいた少年が、不意にわれを取り戻したように顔を上げた。
彼に膝を貸していた男は、不思議そうに小さく首をかしげながら顔を覗き込んでくる。

「ん?どうした」
「拓さん。お客さん」

くるとよ。
チャイムもなっていないが、彼にとっては当たり前のコトで、ただその単語自体が、拓、と呼ばれた男にとっては珍しかった。

「客?めずらしいな」
「う、ん・・・このコードは・・・」

少年の目がどこか夢見心地にゆれた。
その眼が、ちらちらとゆれる。
・・・・・・・人で無いゆえの、演算の様の中、結論がでる前に、その人物が戸を叩いた。

「よぉ」

ここに踏み込むたび、小林は酷く重い気分にさせられる。
数年前までは、殆どその仕事柄不在が当たり前だった男は、空けた扉の向こうで、最後に別れを告げた直後となんら変わらない男の・・・いや、それでも少しやせただろうか?・・・姿にかすかに眉をひそめる。
眼鏡越しにしかあえない、この男を辛うじて生かしていると言える少年が、ぺこり、と頭を下げる。

「どうした?小林」

めずらしいな。
らしくないほど穏やかな口調で、あっという間に世間に広まった「電脳めがね」の開発者を兼ねる旧友、赤野は彼を迎えたが、雑談をする余裕も無く、小林は話題を切り出した。

「俺の教え子が、俺の背中に羽が見えるっていうんだ」
「・・・・・・へぇ?」

それは意外そうでもあったし、試すようでもあった。
おそらく、本人にもその意味合いは分かっていないだろう。
小林はぼんやりとそんなことを思いながら、確認しに来たことを口にする。

「あのプログラムは既になくなったはずだよな?」
「あぁ」
「じゃぁ何で見える?」
「さて?」

俺はその教え子ってヤツをしらねぇし、お前の羽根も見えない。
むしろ面白がっているように、赤野は小林の言葉を、めんどくさそうに突っぱねる。
はぁ。
諦めの、ため息が零れた。
予想はついていたからだ。

「可能性がな、ひとつあるんだ」
「あ?」

じゃぁなんで俺に聞きにきたんだ。
そう問いかけるような声に、あまり言いたくなかった切り札を還す。

「あいつの・・・植木の片目は、ダンドーのもんだ」
「・・・・・・・・・?!」

ぎゅぅ。その名をもつ少年の手が、赤野のシャツを掴むのが見える。
電脳にしかいない子供が、切なげにこちらを見据えて、してもいない息を詰めていた。


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 phase;03


電脳世界だけで生きている存在
彼らが何所まで認められるかどうかが、
議論になったことは、何故か無い


「メガネと言う媒体がなければ、俺たちは存在していないのとかわらねぇからな」

ぽつり。
俺をゲームに誘った「そのひと」は、いつかそうと呟いた。
めがね越しにだけ見えるという「カケラ」あつめ。
宝探しだと、不壊と名乗ったその人・・・まるで影のような、電脳空間の住人は、「げぇむ」とその一連を呼んだ。
実際、眼鏡越しの世界は驚くほど不思議な世界を構成していて、隠れているそれらを見つけるのは、とても楽しかった。
だけど。

「不壊は、ここにいるだろ?」

それが、自分にとっての現実だから、いいと思うんだけれども。

「まったく。兄ちゃんは」
「ん?」

いないのと同じ、と言った彼は、どこか困ったような、苦みをこめた表情で赤い瞳で見下ろした。

「げぇむに誘って、正解だったと、そうおもってな」
「そか。それなら嬉しい」

良くわからないけれど、褒めてもらえたってそう思ったから。


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 phase;04


恐いと思ったことは、結局無い
全てが、現実の延長線上でしかないのなら


「コバセンに羽って似合わないわよね」

クラスメイト、というよりも、彼女のコトは「Queen of meddlesome」と認識している人が、多分多い。
例に漏れず、同じイメージを持っている植木は、だが普通の女子よりも馬が合う彼女、森に自分の見たものを話していた。
すると、彼女はそんな結論を口にした。

「そうか?」
「少なくとも私にはね。・・・・・だからかしら?」
「あ?」
「似合わないって想うから、見えないのかなぁ?」

森は腕を組んで、どうにか植木の言い分を理解しようと努力しているのだが、やっぱり無理ねぇ、と首をひねっている。
その様子に、植木は目をぱちくりとその瞳を瞬かせた。

「そんなことあるのか?」
「メガネの無茶苦茶っぷりからすれば、可能性はあるわよ」
「・・・」

あくまで可能性だけどね。
自分の(遠視用の普段のものではなく)電脳メガネをもてあそびながらそ、っとその眉をひそめた。

「もともと、見えないものを観るためにつくった、って話だしね」
「みえないもの?」

伝説よ?彼女はそうと前置きしてから、言葉を重ねる。

「メガネの開発理由。
逢いたい人に、逢うためだって。ロマンチストすぎて、殆ど伝説あつかいだけど、私はこの説気に入ってるのよね」
「へぇ」
「それより植木。あんたはなんでコバセンに羽なの?」

むしろそっちよ。
切り替えの早い彼女の問いに、あー?と植木は改めて、自分の見えるものを考えた。
導かれる結論は、自分でも、少し笑えた。

「んー・・・
俺にとって、コバセンて天使だから・・・かもしれねぇ」
「・・・・・・・えぇえええええ」


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 phase;05


なんでも、運よく「特別」なメガネに出会うと、とある物語が「迎えに来る」という伝説がある。
開発されて一昔たっていないものに、伝説というのもおこがましいとは想うのだが。


「電脳童話、っていうらしい」
「童話?」
「あくまで伝説だけどな」

聞いたことないか?
ない。
最近メガネを付け始めたばかりだと言う、アウトドア派の彼なら、それは確かにそーかもしれない。
敏雄ははぁ、と幼い印象ばかりが残っている友人でライバルでもある相手にため息をついた。
別に、文句があるわけではないのだが、つい。

「めがね自体の開発が、あくまでも最初は個人的なものであるから、というのが原因らしいわ。
ようは本来削除されたプログラムが、なにかの拍子に表に出るって」

まぁある意味不具合なのかもしれないけれどね。
亜紀が肩をすくめてそんなことをいうと、その隣で、清が思案顔で呟く。

「そのプログラムが・・・
この、げぇむ、なんですか?」

電脳童話。
げぇむ、と呼ばれているのは、伝説の、それ?
そうなのか?
三志郎は振り返って、答えを知っていそうな相手を見た。
他のみんなも、似たようなリアクションをとる。
おそらく、それぞれがそれぞれの「案内人」に同じ問いを投げているのだろうが。

さてなぁ?
黒衣と、銀の髪、赤い瞳の男は、嘯くように肩をすくめて、説得力がない調子で口元をゆがめるだけで。

結局、知っているのかどうか、ということにすら、答えはくれなかった。


・・・・・・・・・・


 phase;06


温度のない世界への再生
それがどこまで「俺」なのか
確かめるすべはなくて


「おはよ。拓さん」

声をかけたのだけれど、めがねがないから、彼には聞こえない。
「そこ」にいるけれど、俺と言う存在は今、拓さんには見えなくて、きこえなくて。
寂しいと想うには、あまりになにもかもが当たり前。
「本来求められている俺」だったら、絶対抱くことの無いジレンマ。距離。

「拓さ・・・」
「よぉ」

何の夢を見ているのだろう。
いつもより穏やかな寝顔に、その髪へと手を伸ばしたタイミングで、知った声が俺を呼んだ。
振り返る。
自分と同じ、影の延長線上にいるような存在が、不敵な笑みでそこにいる。

「不壊」

呟いた声は自分でも情けないほど、泣きそうな色を帯びている気がしたけれど、彼はそういうのを、言うのを控えるタイプのひとで、実際なにもいわなかった。

「朝に来るなんて、めずらしかとね」
「ぷれい屋は学校なんでな。丁度、暇つぶしだ」
「あ、そっか」

学校。
それも本来、この年くらいの「子供」なら、当たり前のシステムのはずなのに、いわれるまで気がつかないとは。

「暇つぶしでも、お客様は歓迎すると」
「そーかい」

そりゃありがたいねぇ。お邪魔したと想ったところだったんだが。
いつもの皮肉屋の口調で嘯くその人に、つい、口元が笑ってしまった。


・・・・・・・・・


 phase;07


メガネにも見えない世界
そこに人は、当然ながら入れないそうだ


情報がものすごい勢いで構築され、消去され、そして再び再構築される。
その繰り返す律動運動の、いわば狭間のような世界。
それが人が「電脳童話」とよぶもので、そのための住人たちが生まれ、消える場所。

「うちのぷれい屋のにぃちゃんの分だ」
「ありがとう」

その中で交わされる、黒と青の会話。
そして言葉とともに、ちいさなカケラたちが受け渡される。
ロックアイスのように、不安定な透明感。
色彩は豊かで、ちらつく情報の光を反射してそれらは不可思議に輝きを放つ。

「これで、もう少しだけ、俺は俺につながる」
「・・・・・・なぁ」
「ん?」
「いいのか?それで」
「よか、よ」

何度も繰り返されたやりとりに、今更変わる言葉などない。

「それが俺の存在理由だから」
「・・・・・・」

たった一人の少年が、この町に、世界に生きていたカケラ。
風化することのない情報の形で残されたそれらを集めることができるのは、「偶然」、「特別なめがね」を手に入れた子供だけ。
そしてその案内人は、げぇむと称して彼らを導く。
何も知らぬまま、すべてはただ、たった一人の為に。

「ひどかねぇ、俺は」
「そうかい?俺は感謝してるぜ」
「え?」

普段ならスルーされる独り言に、だが思っても見ない言葉が返り、少年は顔を上げる。
赤い瞳は、穏やかにたわんでいて、こんな表情を、一体誰が彼に教えたんだろう?と驚かされる。

「偶然を運命に還すより、おれぁ未来の奇跡を掴み取りたいと初めて願う相手が出来たからな」
「・・・・・・不壊・・・」

不思議なことば。
けれどそれは確かに感謝の色を帯び。
こんな罪を繰り返す身を、認めてくれているかのようにも少年には聞こえる。
・・・・・きっとそれは、結局は副産物でしかないのだろうけれど。

「俺たち始まらぬもの達が、待っていたものに逢えたんだ。それは、喜んでイイコトだと、おれぁ想うぜ?」


============

 phase;08
 

人は積み重なって「ひと」になる。
けれど。

「なぁ、不壊」
「なんだい?兄ちゃん」
「不壊は、いつから不壊なの?」
「あぁ?」

子供は無邪気に奇妙な言葉を口にする。
まるでその裏側にある真実が見えているのに、目を逸らしているかのように。

「んー。変なこと聞いてごめんな。
でもなんかこー気になって」
「そーかい」
「だって、不壊は俺にしか見えなくって、案内人で、それから」
「それから?」

続けようとした言葉をあえて拾われたせいかもしれない。
少年の頬が朱に染まる。
改めて自らが口にしようとした言葉に戸惑い、けれど自分の意志で言葉を続ける。

「ぅ」
「それから。なんだい?兄ちゃん」

もう一度。
促された言葉は、けれどもう、隠せないところまで来てしまった。

「俺の、不壊・・・で」
「くく・・・」
「ぅ、なんだよぅ」

いやぁ、なんでもねぇよ。
満たされる幸福感に偽りをからめ、そうと告げる。

「しかしな、兄ちゃん。ふつーは俺のコトなんかより、わけのわかんねぇこのげぇむの方が知りたいのが普通じゃねぇのかい?」
「え?わけわかんねぇって・・・
たのしーじゃん」
「そーかい」

切り替えされるのも、無邪気な言葉。
そこに封じられた、悲しい思いなど知りもせず、かといって・・・知る必要もなく。

「そりゃ集めるかけらがなんのカケラで、それを不壊に渡した後、どーなってるかとかしらねーけど。
なんかほら、宝探しみたいだから」
「ふ、ん?」

「だからゲームより、その、なんてーの?」

そして。残酷な言葉は紡がれる。

俺は不壊が楽しいかどうかのほうが気になってるんだ。


========
 
 
 phase;09


あれ?
森はあるその帰り道、それに気がついた。
まるで、促されるように。

「あんたのめ、両方ちょっとづつ違うのね?」
「ん?うん。昔な、移植したんだ」
「へぇ」
「事故でつぶれて。そんで」
「生々しい話題ね」
「んー」

でももうそれは自分の中で一部の話で。
だから植木は答えをあいまいにした。


「あった」
「へ?」

いきなり。
小学生が自分の方に手を伸ばしてくる。
遠慮が無いと言うより、「こちら」には気がついていないみたいに。
メガネをかけていたから、電脳越しになにかあるのだろうか?
森はつい、促されるようにメガネをかけて植木を見たが、少年が見据える先には、結局なにもみえなかった。

「あれ?でもこれ・・・」
「な、なんだ?」
「にいちゃん、えーと、その目・・・」

戸惑っている瞳は膨れ上がる問いと言うよりも戸惑いだ。
どうしたらいいんだろう、という顔に、植木は首をかしげる。
理由が何も見えなかったからだが、先から目の話題が多いな、とぼんやりと思った。

「今日はこの話題ばっかりだな。もらい物だけど?」
「もらいもの・・・?
んー。どーすりゃいいのかなぁ。
勝手に手を突っ込むわけにも行かないし・・・」

少年は腕を組んで一人うんうん、考え込んだ。
かなり物騒な発想も絡んでいたが、恐らく自覚はあるまい。
そこに、その事態自体を楽しんでいるような声が割り込む。

「必要なのは"かけら"だけだろ?
やりかた教えてやるから物騒な真似はするなよ?少年」
「あ、コバセン」
「かけらってなによ」

普通に彼を受け入れる植木と、胡散臭さに眉をひそめる森。
対象的なそれらに、少年がより戸惑う。

「おっちゃんもげぇむの?」
「ちょっと違うが、主催者を知ってるのさ。
うえき。場所変えるぞ」

ここじゃぁちょっとな。
そういったその人に、植木は素直に従う。

「うん。あ、コバセン」
「あ?」
「今日も羽。きれいだな」
「・・・・・・・そーかい」

勿論、日課の言葉は忘れずに。



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