×××夏と花火と青春時間×××






「ただいまぁ」

じゃんけんで負けた菊丸と海堂が、買出しから戻ってきた時から、結局練習は出来なかったのかもしれない。

夏の日差しの炎天下。アイスクリームの買出しを提案した本人がじゃんけんに負けている辺りが微笑ましい、とか思っているのは勿論副部長。

因みに本日はレギュラー限定練習日。というか、自主練日だったんだけど結局集まったってのが真相。だから、いつもよりは程よくだらけていたりする。

でも、買ってくるはずなのは皆が出した筈の100円で買えるだけのアイスクリームだったはずなのに。

「なんすか?それ」

「はなびー」

桃城の、形だけの質問に、菊丸はアイスを物色しながらあっさり答える。

「海堂が居て無駄買いするとは思えないのだが」

手塚氏、案外ひどいことを真面目に言う。

「・・・福引やってて・・・菊丸先輩が当てたんすよ、2等」

「因みに1等は?」

要らん事を聞くのはタカさん。いや、本人には何のつもりもなかったのだろう。確かに。

「おんせんっす」

ペアの。

其れは・・・争奪戦になったのだろうか?もしかして。

「不二以外には勝つ自信があったなぁ」

じゃんけんの統計のデータはあるから。勿論、全員分。けど不二はわかんないし。

「僕も手塚以外には負けない自信があったのになぁ」

手塚なら、僕と一緒に行くから負けてもいいんだけど。面目立ててあげたいし。

なんか怪しいのと黒いのが妙なテンションでやなこといってる。

(っていうか…この2人の先輩と戦おうとする度胸者なんてそうはいねぇよな、いねぇよ・・・)

レギュラー以外には。この辺、鉄の心臓も要求される青学レギュラー。

もっとも。

それ以前に、結局当たったのは2等なんだけどね。花火。忘れてません?皆さん。

「それよりアイス溶けちゃうにゃぁ。早くたべよぉ」

慣れとは恐ろしいもので、そんな暗い空気なんぞ気付かず(無視して?)声を上げる菊丸に幸い周囲も同意を示す。

がさごぞと減っていく袋の中身は再び用済みとなったパッケージで埋まっていく。

それからこぞって一番涼しい木陰にその身体を一時的に隠して、それから、とにかくダラダラとアイスと一緒に身体を溶かす。

勿論、復活できるぐらいの程度で。

「で?えーじ。あの花火どうするの?」

「ふじー。花火を花火として扱う以外に一体何に使うのか教えて欲しいにゃぁ」

「そうだね。例えば越前の部屋のどこぞの引き出しに入ってそうな本場モノのマジチャカに詰めるとか」

「ないっす」

王子流石に即答。なぜってマジ話なら其れは犯罪だから。

「じゃぁ乾汁に」

「流石に毒は入れないよー。あ、でもどうせしけっちゃうからそうでもないかなー鉄分だし銅とかは不可欠要素なのは確かだし」

「っていうか鉄だってば・・・やめてくれ」

さらりと受ける乾の言葉を切ったのは大石だ。無意識にだろう。胃の辺りを手がいったりきたりしている。

「で?結局その花火をどうする気だ?菊丸」

「ふみゃぁ?」

手塚に振られたのが意外だったのか、菊丸が目を丸くする。

大石の膝を枕にしながら、指についた甘い汁を嘗めている。食べ終わるのが早いのは、咽喉が乾いていた証拠だろう。

「どうするって、元はみんなのお金だもんにゃぁ。貰っちゃうのはルール違反だよねぇ?海堂」

「俺は・・・どっちにしろ、いらないっすから・・・」

「みゃぁ〜。つまんにゃいなぁ。みんなでしよーよぉ」

「はなびをっすか?」

「うん」

意外だ、とかって言葉を飲み込んだのは桃城とタカさん。

理由は単純。

絶対「おーいしとー」とかって独り占めしたってふつーなのに。

「らしくないねー、英二のくせに」

不二がくすくすと口元をゆがめながら皆を代表して正直なところを口にする。

「人聞きの悪いこといわないでなのにゃぁ」

むぅ。膨れっつらの菊丸にさらり、と乾の呟き。

「で、本音は?」

「大石とは別に2人きりでするからいいのにゃぁ」

「因みに、その意見。素である確率98%」

かきかき(←効果音)

「いうまでもないっすよ」

リョ―マ、ちょっと疲れ気味に同意。

「と、ゆーわけで」

いいですか?部長。

「・・・ここでやらないぞ。それから。酒は持ち込み禁止だからな、特に桃城」

何故かもう、全員参加になってるみたいな中で、手塚、最後の足掻きにも似た忠告。って。

「桃先輩、前科アリっすか?」

「ま、なくても盛り上がれる面子だしな」

下手に誤魔化す辺り、かなり派手だったのかもしれない。

「で?誰が一番性質わるかったんすか?乾先輩」

「はっはっは、あんな楽しいデータ、そうそう公開できないなぁ」

あの・・・中学生?



一度解散して、再びの集合場所はとある河原だった。

其処を指摘した乾が、帰りがけに殴られたことはあまり知られていない。この点は、幸い、というべきだろう。多分。

とにもかくにもちゃんとバケツとか用意して、なんか皆が持ち寄った花火もプラスされて、結果凄い量になって。アルコールなしの飲むものとか、お握りとか、とにかくたくさん。

なんかちょっとしたイベントみたいに。

「けっこーごーかっ」

「酒があれば完璧なんだけー・・・」

「もーもしろ」

冗談すよ、冗談。

でも酒が入ってなくてもテンション高い辺りも。

「かおっちゃんのじゅーばこー!エビフライ貰ってい?いい?」

「いいっすよ・・・かおっちゃんをやめてくれれば」

「(勿論後半は聞かず)ぅわぁーい」

「よかったなーえーじ」

なんか、どっちかってーと父→子みたいなGペアとか。

誰も言わない(つっこまない)けど。

「えーじ。食べるのはあとにして」

「みゃぁあ?」

何故って、今回の目的は花火なんだし?

「はい、火、とろーそく」

「なんか乾が持つと似合うねー」

特に逆光してると。すっごく。

何の意図があったとか、そういうことは二の次として。

「あ、そう?」

「…タカさん、発言としてはどうだろう?其れ」

副部長。こんな時でも副部長。しかも、何で楽しそうなんでしょう?乾・・・


「越前。どれからやる?」

「そぉっすねー」

やっぱロケット花火ッしょ?

「とーぜんだな、当然だよ」

「でしょう?タカ先輩もどぉっす?」

「いーねぇ。なんか懐かしいなぁ」


「おおいしー。これやろ、これ!この打ち上げー」

「いいけど・・・気をつけろよ。エージ」

だーいじょうぶ!

「怪我したら大石にちゃんと治療してもらうから」

「・・・じゃぁ俺ができるぐらいの怪我にとどめといてね」

「はぁい」


「かーいど。たのしまなきゃだめでしょ。なんか自主的に荷物番なんかしてー」

「たのしいっすよ。眺めてるだけでも、充分」

じゃ、俺は眺めて楽しんでいる海堂を観て楽しむことにしよう。

「・・・物好きっすね」

「自覚はあるさ」

「・・・救いようのない・・・」


「久しぶりにやるとこういうのも楽しいね」

「あぁ・・・」

あの、全然楽しそうに見えないんですけど?傍目には。

「楽しいぞ?お前と一緒だからな」

「何?なんなら2人きりが良かった?」

「・・・そういう意味なら、俺は菊丸よりも子どもじみている、ということかもしれないな」


秋が混じり始めた夏の風に、さらに火薬の匂いが少し混じって、それから、それぞれの思惑の中で爆発していた。






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