たくさんのありがとうを君に



 And GOLDEN PEA



「てーづか」

「・・・あぁ」

全開の笑顔で名を呼ばれて、手塚国光(見えなくても本日付で15歳)は無感情に応えた。

「はい。これ俺とおーいしから」

誕生日プレゼントだよぉー。

無表情は何時ものことと悟っているのか、声をかけてきた同級でチームメイトの菊丸と、その傍らに立つ大石には、不快そうな気配もなく、渡されたはがき程度の大きさの袋を素直に受け取ってもらえただけで満足げだった。

「・・・ありがとう・・・」

それでも素直に礼を言うと、まんざらでもないらしく、菊丸の笑顔に照れくささの色が混ざり「にゃんか手塚に礼を言われると照れるー」と口にした通りに頬を染めた。

普段口数の少ない手塚と逆に喋ってばかりいる菊丸なので、大体彼等の間で交わされる会話は「グランド二十週」「・・・横暴ぶちょー!」で終わってしまうのだから仕方がないのかもしれない。

「ま、なんにせよ、誕生日おめでとう、手塚」

「あぁ、ありがとう、大石、菊丸」

照れて言葉の続かなくなった菊丸の代わりに、大石が今日の最大目的である言葉を口にした。

このときばかりは手塚も、中3の顔をして礼を言った。

「ところで、これなんだ?」

「ん?トルマリンブレスレット。つけてるだけで肩こりとか取れるんだってー。不二に聞いたら誕生石だって話しだし」

「・・・そうか」

開けた袋の中に入っていた、淡い青の入った半透明のふにゃふにゃしたそれを見つめながら、手塚はどう反応していいのか、ほんの少し困っていた。



 AND INUI


「不二の生写真とシップと乾汁(シリーズ)レシピ、どれがいい?」

「選べと?」

「ご希望があったらそれに順ずるものは用意するけど?データとか、置鮎○太郎のCDとか」

誰だ、それは、とか(自分の首しめそうな気もしたので)突っ込みの方は入れないことにして、手塚は自分のものよりも断然センスのない眼鏡の意力で表情の良く分からない乾に言葉を返した。

「・・シップでいい」

「んー。そういう確率は89.5%だったんだけど、レシピはともかく、写真なんて俺も呪われたくないからな。引き取ってもらいたいんだけど」

他の奴に回してもなんか呪われそうだし?

聖ルドルフの観月あたりに渡したらなんか丑三つ時辺りに活用しそうではあるのだけれど。

「・・・俺なら呪われないのか?」

「多分ね。手塚が不二を裏切るとも思えないし」

「どちらにしろ、最初からきまっているわけか」

「ま、ね」

はい。

シップの箱(剥き出し)と茶封筒。

「礼を言う気が起きんな、なんとなく」

「俺もお前に言われてもこそばゆいから構わない」

そんな応酬でも。

口にはしない、ありがとうがそこにはある。



 AND KAWAMUERA


「次の休み、あいてる?」

ラケットを持っていないときは付き合いやすい同級の声に手塚は頷いた。

「一応な」

「じゃぁ店、来てよ。不二と一緒でもいいからさ」

「何故?」

「誕生日のお祝い。握るの俺でよければだけど」

寿司の握れる中学3年。それもある意味、尊敬対象かもしれない。

「ありがたく招待を受けることにする・・・が、何故不二となんだ?」

「そりゃぁ、俺だって平和主義者だし」

・・・それに対して、どう答えるべきなのだろうか?一体。

「・・・寄る前に連絡する」

「うん。まってるね」

「あぁ・・・ありがとう」



And FUJI

「手塚。誕生日おめでとう」

「あぁ。ありがとう、不二」

「それは僕の科白だよ」

綺麗な顔立ちで、案外黒い性格している彼は穏やかな笑顔で柔らかい言葉を紡ぐ。

「?」

「生まれてきてくれて、ありがとう」

「不二?」


「手塚が、生まれてきてくれて、青学に来ることを選んでくれて、テニスをしていてくれて、それから」


僕を、選んでくれて。


振ってくる口付けを、甘く受け止めて。

手塚は、奪われた言葉の代わりに細い身体を抱きしめて、ありがとう、のかわりを全身で伝えた。



             2002.10.  利剣
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