まぁ慣れたというかなんというか。

恒例ってそれだけ、特別なのかもしれない。






    夏の遊び





終業式が終わり、夏休みに入ったからといって、全国区のテニス部がそうそう休日を手に入れるはずがない。

それがレギュラークラスであれば尚更だ。

しかしその日は何故か、その連中はテニスとは違う処であっつい朝っぱらからうぞうぞと忙しかった。

「手塚、貰ってきたよ」

「あぁ、間に合ったな。そろそろあいつも来るだろう」

先ず、声をはじけさせたのはゴールデンコンビの片割れ。

相方と一緒に馬鹿でかい竹を担いで足取り軽く。

その影の方から、校舎の方に向かっていた河村が危険な物体を担いでおっとりと笑った。

どうやらそれは、彼にとってのキーワードではなかったらしいのは幸いか。

「鉈、借りてきたよ。あれ?乾は?」

「海堂と一緒に調理室だ。あいつ一人で調味させるわけには行かないだろう」

手塚の言葉に、周囲は納得したが、ひとり、此方はハンマーを持っている不二が小首を傾げて見せた。

「そうかなぁ?」

「そうっすよ」

小さい身体では手一杯の、様々な小皿を載せたお盆を抱えた王子様があっさりと頷いた。

「海堂先輩が止めてなかったら、あれとかあれが・・・・」

まるで口に乗せること自体に恐怖を覚えるように未だ幼い表情を青ざめて越前がずぶずぶと沈んでいく。

彼がここまでへこんでいく様は意外だが、それだけのものを見せられたということだろう。

用意されたテーブルに手にしていた盆を載せ、桃先輩を手伝ってきます、と木陰のほうにはしっていく。

件の男は近所の建設現場から貰ってきた廃材と木の蔓で支えを作っているはずだ。


「ともかく。急がないとお昼にまにあわにゃいよ」

英二が声をあげると、竹の枝を河村が借りてきた鉈で落としていた大石が頷く。

「そうだな」

「・・・・・・・・・・・で?それを割らせる為だけに俺達が呼び出されたのか?」

「呼んだのはお前だけだ、真田」


ものすごく低音でぼそりと呟いた「ゲスト」に、部長殿は大真面目に迎え代わりの言葉を向けた。

見事に不機嫌な顔の「皇帝」真田は、その傍らに先日無事に退院した自校の部長・幸村を連れてそこに立っていた。

青学の方の部長とこの立海大副部長、並べておくと年齢不詳もいいところだ。

「折角確実に上手くやる人間がいるのなら披露しておくのもいいだろうと思ってな」

「鉈で?」

「じゃ、自分のダンピラ持ってきたの?」

不二がにっこりと自分のとこの部長の傍らであんまり穏やかでない言葉を問う。

因みにご承知とは思うが日本刀の極道的通称である。

「・・・・・・・・・・・」

「あ、ゆきっち、もう元気?」

「えっと、菊丸君だっけ。うん。お蔭様で何とか。真田も一緒にいてくれるしね」

「うっわ、綺麗に惚気てる〜」

「・・・・・・・」

そういう会話はあっさりと流れ、だからなんだか逆にうやむやになって本題に話が戻る。

「で?」

「気前よく一発で真っ二つに」

「・・・・・・・・・・」

「心配するな。お前と嫁の分までちゃんと用意してある」

「・・・・・・・・・鉈をよこせ」

これ以上何も言われないようにか。

酷く押し殺した声でとりあえず、手を出した真田に細かい枝を片付けた大石が言われたものを渡した。

一瞬、別の方向に振り下ろそうとした様子が無いでもなかったが、彼はちゃんと我慢して、「それ」を貰うことにする。


「竹を立てろ。誰かが下で支えてな。安心しろ、頭までは割らん」

「・・・・・・・・・・・・」

「英二、桃呼んできてv」

「ほぉい。もぉも、おっしごとだよぅ」

スケープゴート、決定。

もちろん、花組の決定に異議を唱える人間はいない。

幸い?、言いそうな王子様は桃の近くにいてこの話の展開は知らない。

そんなわけで言いくるめられた桃城には死んじゃってたかもしれない展開が待っていた。


「で、竹を持って」

「はい」

「真っ直ぐにしておいてな。動かすなよ」

「あ、はぁ」

「目、瞑っていた方がいいぞ」

「へは?」

「はい、とじて」

「え?」

「はい、3、2,1っ」

「真田」

「おぅ!おぉおおおおおっ!真向!唐竹割りぃ!」

「元ネタがふるいぃいぃ・・・って何?!何が起こってんの?!」

「危険よりもそっちが突っ込みか。桃」

「というかそうまでして目をあけない辺りが桃だよね」


軽い音が全体に響いて、空気を振るわせる。

恐る恐るといった様子で桃城が目をあけると、目の前にものすごい顔の他校副部長殿が此方を睨んでいた。

って。

「んなぁああ〜」

「煩いぞ。次期部長とやら」

「いやぁああすいません〜〜」

自分でも何がいっているのかよくわからなさそうに声をあげる。

ただその声で、王子様の方がかけてきた。

「どぅしたの?桃先輩。また花組にいぢめられた?」

いぢめられたって。王子様。

「いや、そうじゃねぇよ、そうじゃねぇ」

従者の方は一応否定する。

もっとも、そう思いたいだけなのかもしれないが。

「とりあえず割れたぞ、手塚」

「あぁ。後は、河村。大石」

「了解」

真っ二つに割れた竹は、声をかけられた2人が受け取ってそのまま節の部分を割り空ける作業に移る。

勿論、その辺は別の人間にやらせると必要の無いところまで壊しかねないからだ。

「それにしても学校にばれたら怒られない?」

手持ち無沙汰の幸村が、やはり手のあいている菊丸にちょっと聞いてみた。

ごく常識的な問いだったが、猫はあっさりと平気だにゃぁ〜と笑って見せた。

「ここまで大掛かりじゃなくても結構やってたから。鍋とかフォンデュとか」

「・・・・・・・・たるんどる」

「そんなことはないぞ。チーム戦においてチームワークは必須だ。
もっともうちの部では入れかわりが激しいのでこういうイベントも必要なんだ」

手塚がさも当然のように告げるが、結局は自分が遊びたいと言う本音も無いわけではないだろう。このイベントの発案者は、結局この部長殿なのである。

しかし硬いだけの立海大副部長には逆に感動する話ではあったらしい。

「成程。友情を大切にしているのだな、手塚」

「その通りだ」

うそくせぇ。

一部ふと思ったりしてたが、勿論誰一人言わない。

納得している真田に、水をさす必要はないだろう。


暫くして、桃城が作っていた細い竹で出来た3本支柱を不二や手の空いたらしい王子らが何本も担いでくる。

等間隔に高さの違うそれらを配置し、河村と大石が節を取り外した竹をその上に載せた。

接合部分を気の蔓で留めて、なんだかその目的があからさまになってくる。

勿論、低い方の端には家庭科室、と書かれた盥が置かれたところで、もう一つ重たい盥を持った乾と、汁らしき物の入ったペットボトルと箸を持った海堂が顔を出した。

「準備できたようだな」

「お待たせしました」

「丁度良かった」

先に薬味のおかれていた机にそれらを一度置いて、ふとそこに竹を輪切りにした汁入れが人数分、置かれている。

さっき支柱と一緒に桃城が用意したものだ。

「さて。あとは」

全員が集まったところで、妙なスクラムが組まれた。

勿論、ゲストとて例外ではない。


「と、いうわけで」

「・・・・・・・・・・・」

「麺をながす担当を決める。一発勝負、被害者意識など言語道断!
勿論その担当も喰えないわけじゃないので、いくぞ!」

「・・・・・・・ちょっと待て。ゲストもか?」

「当然!だっさなきゃ負け犬じゃんけん!」

戸惑う真田など無視し、しかし彼とて反射的に、そして全員が一気に拳を突き出す。



今日もまだまだ暑くなりそうだった。






暑中見舞い申し訳ございます。(あれ?)
と言うわけで2004年夏・暑中見舞い話には初書き真幸付。
結局これはダブル・アルファベットのノリでございますか。
っていうかありえねぇ。ありえねぇっすよ、この光景。
因みにいいわけをするわけではないのですが
これ以上長くしても変になるだけかと思いまして。ここでおしまい。
で、「真向唐竹割り」ですが元ネタは「マイトガイン」です。
解らない人には全くわかりませんが、好きなんです、あのアニメ。
では。暑い夏、頑張ってすごしてくださいませ。

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