・・・・・・コンビネーション・サラダ



「宍戸さん宍戸さん!」
氷帝学園、第三校舎屋上。
本来立ち入り禁止になっている筈のそこに、いかにも相手を慕っているといった声が響いた。
きつさを顰めた秋の日差しに、淡く金木犀の香りが融けて心地好い眠りを誘われていた宍戸は、その声の所有者を、日差しを遮っていた帽子越しに薄目で捜した。
折角授業をサボってまで寛いでいたのに。
そう思ってダラダラと枕代わりにしていた鞄から携帯を取り出すと、もう4時限は終わっていて、昼休みに入っている時間だった。
あぁそうか。待ち合わせもしていない、でも授業をサボるなんて発想が出来ないあいつが、当たり前のように顔を出す筈だ。
それを感情で確認したのと殆ど同時にダブルスのペアの全開の笑顔が視界を埋める。
犬みたいな奴やな、とは中学生の癖に親元離れて一人暮らししている関西出身のチームメイトのコメントだが、尻尾を振らんばかりの自分への懐き具合に、いつも否定できずにいる、相方。
「・・・何か用か?長太郎」
分かりきっているのにそんな言葉をぶつけると、相手は余計大型犬を思い出させる癖のある髪をかき回しながら、分かりきっている答えを返した。
「まだお昼取られてないですよね?一緒に食べましょう」
そういって掲げられた弁当は購買で買ったもののように茶色の紙袋に入れられていた。
一人分には大ぶりと思われるそれは、何時の間にか当たり前になってしまった「2人分」の量だ。
「・・・今日はですね、クレソンと生ハムのサラダなんですよー。後パニーニとパプリカとクリームチーズのサンドイッチもあります」
「・・・いつも思うんだがな、長太郎。お前これ、自前だよな?」
どんどんと広げられていく、どこかで見た使い捨ての容器に入っているサラダもサランラップに丁寧に包まれたサンドイッチも、優雅を誇る氷帝であってもコスト的には購買部では売っていないようなものばかりだ。
「そうっすよ。宍戸さんが食べるものですからね。ご家庭の方は仕方がないとして、その他のことぐらいは絶対俺が作ったの以外じゃ食べさせたくないです」
「・・・え?」
ステンレスの魔法瓶から柔らかい紅茶の香りが放たれる。
最初の頃はティーセット一色持ってきていたものを、流石に、と宍戸が妥協させた結果の代物だ。
それでも渋くないのに紅茶の味自体は濃くて、砂糖もないのに甘味がある。身体を起こして差し出されたカップを受け取っている間にあっさり告げられた、なんか凄いせりふを聞き返せないまま、結局咽喉を潤すことしか出来なくて。
で結局黙々と食べていると、ふいに鳳の声がからかいの色を孕んで掛けられた。
「・・・・・宍戸さん」
「うん?」
「今日、全然授業でていませんよね?朝練から」
「・・・あぁ・・・。ホスト顧問に昨日来るなって言われたし」
それもあまりにも下らない(最も本人にしてみればある程度深刻なのだが)理由での許可があるサボりなので、咎められると反論できない宍戸だったが、ある程度無感情に言葉を返した。
まさか親に「今日誕生日だから学校行きたくない」とはいえない。結局、こんなところで時間を潰すしかなかったのだが。

氷帝のテニス部のレギュラーと言うのはそれだけで高嶺の花の扱いを受ける。
向けられるのは羨望と畏怖、そして時々の恋情と・・・敵意。
つまるところ、誕生日をはじめとして所謂「告白イベント」と言うのは彼等にとってはものすごい負荷のかかる日となる。
だから大概、誕生日みたいに集中攻撃を受ける時は皆休む。
休まないのは樺地ぐらいだ。もてないわけでもないらしいのだが(見かけはともかく案外誠実なところがあるので女子の人気は悪くないらしい)、その辺は休むことを約1名が赦さない。
閑話休題。
「じゃあ、放課後も出ませんか?」
「あぁ」
「じゃぁ、俺もサボります」
「・・・・?長太郎?」
らしくない。そう思ったらその口調は咎めの色を帯びていた。
確かに宍戸へのプレゼントを押し付けられそうな可能性もあるのだが、そればかりとは思えない、その様子。
宍戸の態度をどう受け取ったのか鳳はちょっと悪戯な目をして自分のパートナーに笑いかけた。
「俺ぐらい、ちゃんと祝らせてくださいよ」
妙に男臭くて、しかしキッパリとした目線。
一瞬はなせなかった目線を振り切り、宍戸は微かにうめくよな声で言葉をぶつけた。
「・・・バカじゃねぇの」
だが動じるような相手じゃないのも良くわかっている。
「いいじゃないですか。ね?」
決まりですよ。

振り切ったはずの目線を、無理矢理引き戻された。
いや、無理矢理、というのはお互いにとって不名誉なことか。
どうしても。
鳳の手によって促されるまま、宍戸は彼と目線をあわせることに抵抗を示せなかったのだから。

「宍戸さん・・・」
「・・・誰が、来るかわからねぇ…長太郎・・・」
「屋上は立ち入り禁止でしょう?」

呼吸が、重なる距離。
自然重たくなる瞼を、宍戸はこじ開けることが出来ない。
邪魔が、入らなければ交わされるのは約束代わりの口付けの筈だった。

 がたん。

「へ?」
「っ!」
甘い空気が一掃された。
音の方を向いたコンビと、不本意か本意かは計り知れないデバガメとが目線を交わす。
「あははははは。お熱いこって」
「・・・おしたりさぁ〜ん」
「すまんかったな、ま、俺らに構わんととっとか続き続き」
「はやくやれよぉ。せっかくなんだし」
もう一つのダブルスペアがはやし立てる中で、続きができるほどの2人でもない。
「・・・・・・忍足…」
「ややなぁ、恐いで、宍戸」
「とっととうせろぉ!」

秋の気配色濃くなりつつある屋上に、照れと混乱を全開にした宍戸の絶叫がこだました。









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えーと。
多分、鳳×宍戸。
忍足は私、大阪弁+めがねに弱い結果でてきました。
・・・がっくん書きにきぃ・・・
祝ってるのか?これ・・・
しかも氷帝マイ設定。
サボっていい日があるなんておかしすぎ・・・
タイトルはあんま意味ないかも。サラダ出てきたから良しにして?
遅くなったけど宍戸さん、たんじょーびおめでとーv

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