PARTY NIGTH 「と、いうわけでしてー。みにゃさん。グラスの準備はいーですかー?」 「どういうわけだ?」 「やだなぁ手塚。あまり下らないツッコミばかり憶えるとこの世知辛い世の中では長生きできないよ」 「っていうか不二を選んだ時点で長生きできない気が・・・」 「別の意味で生かされそうっすけどね」 「部長も気の毒だよな、気のどくっすよ」 「・・・始めるなら普通に始めない?もう」 「アルコールがある時点で普通というのはどうなのかなぁ」 「・・・まだまだだね」 場所提供、河村隆。 丁度予約がないから、という理由で2階の宴会場を借り切って、青学テニス部は恒例のクリスマス会・・・というより最早忘年会といえるイベントを開催した。 1人食べるもの2品目、飲み物1種(最低ライン)。 盛り上がるには充分である。 主催者の1人である菊丸が、皆にグラスを掲げるようにと促して、宴会は幕を開けた。 「とにもかくにも!クリスマス&おちび誕生日おめでとう記念!乾の用意したものとは思えないぐらいのワインにてかんぱーい!」 「シャトー・モンテリ―ナのヨハネクスベルク・リースリングだ」 菊丸の明るい声に乾はあくまで冷静な口調で注約をつける。 そんな長い横文字にゃんか憶えらんにゃいもん!と声をあげる菊丸の隣りで、杯を傾けかけた手塚はちょっと目を丸くして「よく手に入ったな」と小さく呟いた。 数年前の品評会で、ボルドーさえ凌いだシャトーの品だ。しかもあまり輸入されてきていない筈。 「ネットで手に入れたんだ。フランスワインより、カルフォルニアの方がいいだろ?越前」 アメリカ帰りの後輩に、乾はどこか含みを持たせて言葉をかける。 ワインに関しての抗争は、フランスとアメリカの間では案外昔からあるのだ。 「そうっすね」 もっとも越前の返答は素っ気無い。だが咽喉を潤して同時に焼く味わいには満足げだ。 「因みに手塚は何もって来た?」 どぶろくなんて珍しいものと寿司を用意した河村が楽しそうに聞いてきた。 手塚のほうは生真面目に応える。 「祖父が持たせた。マッカランの18年だ」 「うわ、スコッチかぁ」 「久しぶりだな」 って。中3でスコッチが久しぶりというのもなんか問題あるような。 「久しいといえば不二が用意したのはアブサンだぞ」 一時期、常習性の強さから禁制となっていたニガヨモギ系のリキュール。これもまた、珍しい類の酒だ。 っていうか中学生の飲みたがる類ではない。 因みに菊丸はノンアルコール系のジュース。桃城はビール(エビス)で越前はJAPONという微発泡日本酒で、大石はカミュXO。海堂が自家製の果実酒となっている。えーと、とりあえず酒の話題はこの辺で。(キリも時間もないので)っていうか、誰一人止める人間いなかったのだろうか?彼らの家にしろ店にしろ・・・ 「みゃぁ、おーいしんちの唐揚げおいしーv」 「英二の作ってきた一口サンドイッチも美味しいよ」 「海堂の家の凝ってるね。このローストチキン、手作りでしょう?」 「そーッスけど・・・詰めて、焼くだけっすから」 なんだかんだと多国籍な料理もアルコールもどんどん減っていく。 減っていくに比例して、やっぱりテンションは無常にも上がっていく。 「いっちばぁん、きくまるえーじ!おーいしにちゅぅしますー!」 (ノンアルコールを中心に飲んでいた筈なのに何時の間にか混ぜられたジンによって)へべれけ全開で声をあげた菊丸は、言うに早いわ隣りに座っていたダブルスパートナーに熱烈な宣言どおりの行動を押し付ける。 いつもだったら上手く逃げられる筈の大石も、アルコールのせいで上手く動けず、結局そのまま勢い任せて背中から倒れこんでしまう。 で、それを誰が止めてくれる筈もなく。 「2番、桃城武!とりあえず歌います」 とりあえずってなんだー!とかの突っ込みの中で、本当に[とりあえず]という枕詞がぴったりくるような独特の調子はずれな、しかもよりによって山下達郎が部屋に響く。 暴れ出さないだけまだましだが。 「桃先輩へたー」 それに対して、けらけらといつもだったら絶対見られないような大口開けて笑っているのはリョ―マだ。彼も最早、アルコールに捕まっている一人のようだが、俺が歌いますよ―と珍しい言葉を口にして、桃城を驚かせた。 悪戯っ子の目をして立ち上がり、手を真っ直ぐあげて宣言する。 「さんばぁん、えちぜんりょーまもうたいます!」 まだ編成を迎えていない咽喉から零れたのは有名な英語のクリスマス・ソングだった。 当たり前だが、流れるようなきれいな発音。 意外なほどの響きは勿論、畳敷きの部屋にはそぐわない。 それでも。 例えば既に潰れてしまった海堂を膝枕してご満悦な乾とか。 酔ったふりをして(あからさま)手塚に絡んでいた不二とか。 そういう連中も、なんとなく静かにしなければならなさそうな、存在感のある歌声。 やがてフェイドアウトしていくのと同時にその体が崩れて、桃城が慌てて支える羽目になる。 ふにゃら、となった無防備な王子様はどこか子供じみていて、勿論本当なら当然子供なわけなんだけれど、なんていうか、そう。 天才だとか、生意気だとか。 そういう肩書きが全然いらない、そんな存在。 「そういえば13歳なんだよなぁ」 「もも?」 弛緩しきった小さい身体を抱きかかえている桃城はあくまで真剣に先輩方にお伺いを立てる。 真剣だが・・・酔ってなきゃ言わないだろう、こんなこと。 「もう犯罪じゃないんすよね?手、出しても」 「・・・・・・」 真剣に聞いてくる後輩に、手塚はとりあえず「酒抜いて来い。町内二十週」とだけ返した。 その隣りの不二はいつもの笑みで杯を傾けながらだめだなぁ、と言葉を紡ぐ。 「桃。とりあえず13歳以下ってのはクリアーしたけど、同意じゃないと犯罪だよ」 「同意ならいいんすよね」 漢(とかいておとこと読む)桃城武。拳を握ってあくまでも真面目に。 「本人に聞きなよ、そんなことは」 河村も、もう慣れてしまっているのでそう返した。 同級生がそういう連中ばかりだと、人間できてくるものである。本人が嬉しいかどうかは別として。 その隣りで乾が(片手は海堂の髪を梳きながらもう片)手にした、どっからだしたかわからないノートを見ながらあくまで冷静に「まぁお前の口説き方で越前が折れる率は29.6%ってところだな」と言い放つ。 「まぁ確実に口説いていくんだな」 「うぃーっす」 千何年も前に死んだ誰かさんの誕生日より。 多分。 目の前にある伝統を背負ってっていくだろう小さな天才に。 今夜はHAPPY BRITH DAY・・・ ------------------------------------------
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