手作りチョコレートが失敗するのはちゃんと溶けきっていないから。

ちゃんと溶けきって、ちゃんと混ぜ込まないと、油分が分離して表面が白くなってまずく なる。

溶けるんならとことん溶けて、とことん混ぜ込まないと、失敗するよ、なんて。

恋に似てる、なんて思ってみたり。





Sweet Present




2月中ほど某日。
男という生き物が微妙にそれまでの1年間を振り返り、微かであっても甘い期待が出来る 何かを求める頃。
「かおっちゃぁあん。おちびぃい!」
卒業を間近に控えている筈の先輩の声に、その対象とされた海堂と越前は直前までやって いたラリーを止めざるをえなかった。
・・・・・・えーと・・・
「何か用っすか?・・・菊丸先輩」
「うん。拉致るから付き合いなさい」
「――――?」
笑顔全開で、物騒なことを。
困惑というか何というか。
どう突っ込んでいいのか悩んでいる一瞬の間に、彼は宣言どおり後輩2人の腕を取って コートを出て行く。
他の部員もその唐突さに呆気に取られていた。
それは同時に、この先輩へのかかわりを拒否しているようで、つまるところ。
触らぬ神に祟りなし そんな格言に基づいていたのかもしれない。
「ふじー。持ってきたよぉ」
れ込まれた先は家庭科室で、先客の名を呼ぶ菊丸に、越前と海堂は顔を見合わせた。
お互いに混乱していて、逆に笑えて来る。
それはある種の諦めだったのかもしれない。
「ご苦労様。はい、じゃぁエプロンつけて。2人とも」
「その前にちゃんと手を洗ってね〜」
――――・・・ 何の説明もないわけね。
後輩2人は揃って溜め息をついた。
「逆らう気力はあるか?越前」
「海堂先輩こそ」
2人はもう一度、示し合わせたように息をついた。
「何やらされるんでしょうね」
「そりゃぁ・・・この時期じゃあれだろうな」
一応言われたとおりに手を洗いながら・・・そして普段の彼等の何倍もの時間をかけてい る辺り、心情がうかがえる。
2月の半ば。
イベント好きなこの3年2人が、しかも自分達だけを拉致って来たのだ。
他 にないともいえる。
しかし越前は上手くそれに見当がつかずに首をかしげた。
そこでそうだ、製菓会社が気合 を入れるのはそういえば日本だけっていう話だったな、と気づく。
「多分、チョコだと、思う」
「なんでっすか?」
「日本においてのお約束って奴だ」
「・・・?」
「そこぉ!2人ともさっさと支度しにゃさぁい!」
どうも説明するのが照れくさくてお茶を濁した答えしか出来ない海堂のそれに、さらに重 ねようとした越前の問いは菊丸の騒ぎに掻き消えた。
「まぁ、後で嫌でもわかる」
海堂はそれだけ言って、用意された(幸いシンプルな)エプロンをつけた。
青学ジャージの上からこんなのつける経験、めったにないな、とどこか現実逃避じみたこ とを思いつつ。
続いてリョ―マも同じようにエプロンをつけようとしたが、着慣れていないのか背中のリ ボンが上手く縛れず、何度か失敗していた。
海堂は貸せ、と短く言って手早く小柄な身体 に軽いカラーを纏わせた。
それから既に用意されている机を見ると、成程。
製菓用のスィートチョコレートに幾種類ものフルーツ。
それからマシュマロと無塩らしい バター。
幸い、的外れなものは見られないのに安心する。
「手作り。ッスか・・・」
「そう♪」 海堂のどこか遠い呟きに、不二がにっこり笑った。
実に楽しそうだと思う半面で、彼が贈るであろう相手に余計なものが加わらないようにと 無言で祈る。
勿論、危ない状態を見ても、止める度胸はないのだけれど。
寧ろ何が起きても、少なくともここで行なわれたことに関しては一切口を噤もう。
そう誓うことしか、海堂には出来なかった。
「一口フルーツチョコとチョコまんでいーかにゃ?」
「今更買いに行く気力もないっす・・・」
「っていうかチョコまんて・・・」
「作れば解るよぉん」

菊丸印のチョコまんの作り方。
材料・・・・・・・・・・・
板チョコ(1枚)
マシュマロ(1袋)
バター(適当)
コンスターチ(手抜き)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 作り方 ・・・・・・・・・・・・
@ 雪平鍋にバターをとかしてマシュマロを蕩けさせる
A @に板チョコを割りいれて只管綺麗になるまで混ぜる。
B バットの上にコンスターチを広げて、溶けたAを流しいれる(広げる必要は無し)。
C ある程度冷めたら粉を表面に付けて円柱状形を整える。
D 一口サイズ輪切りして切り口にも粉をつける。
E 完全に冷まして出来上がり。

ナッツやフルーツに絡めつけるように用意したチョコレートを湯煎にかけながら不二がさ り気無く何か入れる。
それを見てしまった越前は一瞬不安の色を目に湛えるが、鼻につく 香りが上質のブランデーだと気づいて、ホッとする。
「完成―!後固めるだけかな」
「っていうか、どうするんスか?これ」
「14日におちびは桃にあげんのー。決定事項だかんね」
「・・・・・・」
越前は説明を求めて、一番まともに答えてくれそうな海堂にその目線を投じた。
不二も菊丸も選ばない辺り、絶対的な選択である。
「日本のバレンタインはな、簡単に言うと女が男にチョコレートをプレゼントして告白す るって言うのが主流なんだ」
「・・・あー・・・と・・・」
つまるところの意味を悟って、越前は頬を染めた。
答えた海堂もどこかばつが悪そうだ。
「いかにも先輩たちが好みそうっすね・・・」
「まぁ、そういうことだ」
それ以上何を言うでもなく。
ただ思い人の笑顔を望んでいるのだと、それはわかるのだけれど。
「でも、先輩」
「うん?」
「俺、男である自分を、否定したいわけじゃないっす」
少しだけ、その声は痛みを伴ってその場の皆に届いた。
「どういうことかな?」
不二の声は思いのほか、穏やかだ。
普段喋らない海堂は、一生懸命言葉を捜す。
「・・・そ・・・その、なんていうか。・・・俺は、先輩と、あの、対等でいたいんす。 女扱いとか・・・守られるとか・・・そんなの、真っ平だし・・・そんなんじゃないんす よ」
例えば。闘う時に、その背中をあづけてもらえる信頼を勝ち取りたい。
言葉を捜す海堂に、不二はやはりいつもよりも静かな空気で「うん」と答えた。
「海堂のいいたいことも、わかるよ。 そうだね。 <彼女たち>っていう存在にしてみれば手塚にしろ、乾にしろ、どちらにしろ僕達男が選 ぶことが当然の価値観の対象だって事だもの。 その中で、僕達は彼等を選んで、彼等も僕たちを選んだ。 染色体の数で、とっくに負けているのにね。 ・・・だから、かなぁ。 喜んでくれることは、何でもしてあげたい、なんて思うんだけど」
海堂は違う? 思ってもいない告白に、菊丸も驚きに目を丸くしている。
「・・・それは・・・」
「なんてね」
次の瞬間には不二の笑みはいつものそれで、その場全員がフリーズする。
「・・・不二・・・?」
「元々バレンタインなんて禁じられていた(士気に影響が出るという理由で、出兵が決定 していた)兵士たちの恋人との思い出のための結婚を認めていたことを咎められ、殉職し た聖ヴァレンタインを偲んだ、いわば法事だよ?女の子がチョコで、なんてここ何十年 て、しかも日本だけのことなんだから。しかも知ってる?一番最初の年の売れ行きなん て、たったの一桁なんだからね。 一番最初に聖ヴァレンタインへの供物だったものも、何時の間にか恋人同士でのプレゼン ト交換が主力になっていくし。ぼくらはそれにのっとって。それでいいと思わない?」
いいと思わない?とは言うものの、その目はどこか脅迫めいて映ったのは海堂だけではな かったらしい。
「そろそろできたかにゃぁ?ラッピングしよぉ!」
その海堂に「反論するな」という目線を浴びせてから、空元気のように菊丸が割って入 る。
勿論、いろんな意味で。
異論を唱える人間がいる筈もなく。
まぁ、確かに。 何時もの性質の悪い「お願い」は流石に勘弁して欲しい時もあるけれど。
喜んでくれるなら、吝かではないかも、なんて。
惚れてないときっと思いもつかないんだろう。
人間ていうのは。

END

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
えーっと・・・・ 以上。
バレンタイン、ハニーs話。 ごめん。寒いね。解ってるから笑って赦して・・・


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